進化を続ける通信規格を開発
国際標準化プロジェクトで活躍

進化を続ける通信規格を開発 国際標準化プロジェクトで活躍
高度専門職|リードエンジニア
山本 哲矢

パナソニック ホールディングス株式会社
テクノロジー本部 
デジタル・AI技術センター

Profile

2013年に入社し、4G、5G、5G-Advanced標準化の研究・開発に従事。上りリンクの信号設計・伝送技術方式、超高信頼・低遅延通信(URLLC*)技術を中心に社内議論を主導、標準化における仕様策定を推進している。5Gの標準化動向やURLLC技術について講演や招待論文を依頼されるなど、社内外からエキスパートとして認められており、アカデミックな分野でも積極的に活動している。

*URLLC: Ultra Reliable and Low Latency Communication

※所属・内容等は取材当時のものです。

国内外の企業が自社の技術を持ち寄り、新たな通信規格の仕様を決定するThe 3rd Generation Partnership Project (以下、3GPP)の標準化会合、そこでパナソニックの代表として参加し、技術提案をするのが山本哲矢さんです。標準化業務で自社の技術の優位性を訴えかけるには、知識と発想に裏打ちされた高い技術力が求められます。世界中の企業を相手に堂々と立ち向かう時、心の底にあるのは「豊かな暮らしを実現したい」という強い思い。リードエンジニアとして、これからの通信を作り上げていく山本さんに話を伺いました。

Chap.1
技術開発で社会に貢献

世界を相手に磨き続けた提案力

インタビュー画像
Q 現在担当している業務について教えてください。

無線通信における、通信媒体に応じた信号の種類・内容、データの伝送方法に関する取り決めなどを扱う物理層が専門で、移動通信システムの通信方式や制御方式の技術開発を行っています。4G、5Gといった移動体通信の技術仕様を検討し、作成するための国際標準化プロジェクトである3GPPに参画して、当社の技術を提案し、通信規格として採用されるように働きかけます。

標準化は新技術を開発して規格に導入するだけが目的ではありません。広く世の中で使っていただくために、従来規格との連続性や実装する際の複雑性なども検討した上で研究開発をしなければなりません。また、参画する国内外の各企業が技術をアピールし、自社に少しでも有利な規格にしようと積極的に働きかけるため、標準化プロジェクトはさまざまな利害が交錯する非常に複雑な力が引き合う場です。高い技術力はもちろんですが、決してひるまず、技術を分かりやすく伝える提案力も求められます。

3GPPの会合はおおむね1週間連続で行われるのですが、開催日の約10日前に技術提案書の締め切りがあり、各社の資料が出そろいます。会合全体で1000~2000、一つのテーマで100~150ほどの資料が提出されるので当日までに読み込んで、他社の提案を理解した上で、議論を交わす必要があります。会合では議論が常に白熱し、最終合意に至るまで何度も意見をぶつけ合います。

Q ご自身の強みを教えてください。
インタビュー画像

大学時代から研究を続けてきた通信方式やその要素技術への高い専門性と開発能力だと考えています。また、学生時代から論文執筆や国際会議への出席、学会発表などの機会をいただけていたので、日本語や英語での文書作成能力にも自信があります。3GPPの会合でも、自社技術をアピールする資料を作成してきたので、多少場数は踏んでいるかと思います。しっかりとデータを取り、分かりやすい論理構成で構築した資料で説明することを常に意識しています。

Chap.2
先輩の背中から学んだ

世界レベルの技術者像、求められる知識と技術

インタビュー画像
Q これまでで一番苦労した経験は?

2017年に行われた3GPPでの5G初期の標準化会合で、議長から初めて議論の取りまとめ役を任せていただきました。当然、各社意見が異なる中でコンセンサスを取る必要があり、各担当者と意見交換を繰り返しました。議長や当社以外の技術者の方にもさまざまなアドバイスをいただき、どうにか最終合意までたどり着きました。ろくにご飯も食べられないほどの重圧で、会合が終わって帰国した時は体重が驚くほど落ちていました(笑)。

Q 影響を受けた人物は?

同じ部署に所属する高度専門職の大先輩を目標としています。標準化団体で表彰もされており、国際的にも技術力の高さが認められています。3GPPの会合前に社内での技術検討を経て、当社の提案を取りまとめるのですが、その第一関門となるのがその先輩なのです。彼を説得して味方にした提案は、自信を持って他社にも提案することができます。

標準化で求められる「技術力」は、技術への知識量と課題解決への提案力。自社技術をかみ砕いて説明するには豊富な知識が必要ですし、会合の場で競合する技術提案に対して調整しながら新たな技術を構築していく柔軟な交渉力も求められます。先輩は標準化にまつわる総合的な技術力が世界レベルにあり、自分もこの人ようになりたい、と日々勉強させてもらっています。

Q パナソニックグループで働いてよかったことは?

私はプレーヤーとして、若手やベテランの方と一緒に年齢や立場に関係なくフラットに技術開発に携わるタイプ。高度専門職として技術を高めていくというキャリアパスが用意され、任命後は自分が進みたかった技術のエキスパートへの道がより明確になりました。また、昨年は子どもが誕生したタイミングで2カ月育児休暇を取らせていただきました。学会幹事を務めながらも育休を取得することは、あまり前例のないことではありましたが、多様な挑戦の仕方が用意されていると実感しています。自らの姿を若い世代に見せることで、研究に対する考え方や姿勢を後進に伝えることはもちろんのこと、ワークライフバランスを保ちつつしっかりと成果を出すことで、社内のより働きやすい職場づくりにも貢献できるのではと考えています。

Q 技術を高めるために心掛けていることは?
インタビュー画像

情報収集力を高めること。研究開発には、必要な資料を探して情報を理解する能力や信頼性のある情報を見極める能力が必要だと思います。また、収集した情報を次からも活用するために、情報を整理・分析して、どこにいけば知りたい情報を得られるのか、そのポインターのようなものをしっかりと持っておくことだと思います。自分で技術検討する時や人に尋ねられた時でも、ポインターを把握していればここの資料を見れば何か見いだせるかも、とスムーズに技術検討を進められたり、人にすぐに教えられたりできます。情報の芯の部分を取りこぼさないことが、技術者として必要な能力だと思っています。

学生や若手技術者の皆さんには、ぜひ学会や他社の人と積極的に議論を交わすなど接点を持って、外部とのつながりを大事にしてほしいと思います。いろんな視点や考え方に触れられますし、技術に対するアプローチも刺激になり、自分の成長につながっていきます。

Chap.3
To the Next

さらなる進化、新しい分野への拡張

インタビュー画像

5Gに続く新たな規格として5G-Advancedの開発が進められています。バーティカルといわれる新たな産業分野の業界が続々と3GPPに参画しており、改めて多様なユースケースごとに特化した機能の開発が必要になっていると実感しています。くらしや仕事領域での「ウェルビーイング」の実現には、場所を問わず信頼のおけるネットワークに接続できるモバイル通信システムが不可欠な社会基盤であり、私の仕事は、その実現に欠かせないと考えています。自分自身の技術を高めながら、既存のユースケースだけでなく、新たな産業分野でも用いられる通信技術を開発し、豊かな生活を下支えするような、そんな社会貢献を続けていきます。