先進的な研究チームを率いる
AI研究・応用のスペシャリスト
パナソニック ホールディングス株式会社 技術部門
テクノロジー本部
デジタル・AI技術センター
機械学習、最適制御、強化学習の専門領域を生かし、人工知能のロボティクス応用に関する研究開発に従事。研究成果はICRA, IROS, CoRLなどロボティクス分野のトップカンファレンスに採択されている。社内AI研究チームREAL-AI活動をけん引し、家電機器のスマート制御技術の開発や、深層学習と制御理論の融合を目指した基礎研究を進めている。パナソニックの有給インターンシップでメンターを担当した経験もあり、後進育成にも力を注ぐ。奈良先端科学技術大学の客員教授や人工知能学会理事も務め、社外にも活動の幅を広げている。
「AI研究者を志したきっかけは、著名教授との出会いでした」――機会に恵まれ自らのアイデアを話すと、国際会議の論文執筆を促されるほど評価を受け、夢中になってまとめ上げた経験が今につながっていると言います。そこを起点にAIを活用した家電やロボットの制御技術を研究しながら、各事業部からAIに関連した相談事を受ける立場にまで技術を磨き上げていきました。研究機関での最先端の研究をモノづくりの現場に応用することを自身の使命と定めた岡田さんは、パナソニックだからこそAI研究の強みがあると力を込めます。
「今すぐ論文を」著名教授の言葉に導かれて
AIを使ってロボットや家電製品の制御を行う手法の研究です。エアコンを例にすると、AIを活用して、データを分析・見える化することで、省エネ性能を向上させつつ、快適性もさらに追求することができます。各事業部からAIに関連した相談事を受けて、それを一緒に解決する。まず課題を分析して、さまざまな解決方法を模索していきます。
AIとロボットを組み合わせる研究は昔から行われてきましたが、工場のラインや身の回りに幅広く展開されているかというと、必ずしもそうではありません。先端研究と現場でのギャップが大きく、それを埋めるのが私たちAI研究者の使命だと感じています。世の中のAI研究の多くは、実課題を見つけることに苦労している印象を持っていますが、パナソニックグループは自社で多種多様な製品を製造しており、製造現場からたくさん相談をいただいている点でかなり優位性があります。
少し専門的な話になりますが、ChatGPTなどに代表される大規模言語モデルと呼ばれるタイプのAIは、汎用性に優れてはいるものの、情報量に関して言えばまだまだ「広くて浅い」。モノづくりの現場にはさまざまな部品や工具、治具がありますが、それらの名称や役割を大規模言語モデルは知りません。なにより大規模言語モデルには触覚がないわけですから、例えば組立作業に必要な緻密な力加減というものを理解できていない。ですから、そういったモデルのAIを現場に導入するのは難しい。必要なのは専門的な知識を有し、実世界との相互作用を理解したAIです。
学生時代は音響の研究をしていました。直接的に世の中の役に立つ研究がしたいと思い、パナソニックに入社しました。2016年頃に「AIによる制御技術がこれから盛り上がる」と、カリフォルニア大学バークレー校の著名な教授の研究を調査する仕事に携わることになり、直接教授と対面して話をするという大役に抜擢されました。みっちり勉強して、教授の論文から着想を得た新規アイデアを熱っぽく語りました。すると「Super Interesting. 今すぐ直近の国際会議に向けて論文を書きなさい」と背中を押してくれました。
締め切りまで3日というタイトスケジュールでしたが、上司や先輩たちのサポートのおかげもあり、書き上げることができました。公開した論文は国内外のさまざまな著名な研究者から引用いただいており、また社内でも一定の知名度を獲得することができました。そこから私のAI研究がスタートしたのです。
俯瞰的な視点がもたらした先駆的な研究
クロスアポイントメント制度*1で、パナソニック社員で主幹研究員の籍を持つ立命館大学の谷口忠大教授(現:京都大学教授)が発起人となって設立したパナソニックグループ全社横断的な先端AI研究開発チームです。
IROS*2 に参加した岡⽥さん、⾕⼝教授(中央)、REAL-AIメンバー含むパナソニックチーム「Reaching the Top,Bridging the Gap」をスローガンに難関国際会議への論文採択など世界トップレベルの研究を続けています。同時に、先端研究レベルとモノづくり現場のギャップを橋渡しし、最新AI技術の全社への活用範囲を拡大させたい。AI技術の将来見通しを洞察し、当社の技術的戦略の構築への貢献を目指しています。
*1クロスアポイントメント制度:2つ以上の機関に⾝分を置きながら、それぞれの機関における役割に応じて優秀な専⾨⼈材が研究・開発及び教育に従事することを可能にする制度。大学教員が民間企業に勤務する日本で初めての事例となった。
*2 IROS:IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems.世界最⼤級の国際的なロボット学会の⼀つ
研究とその応用の両輪が回ると、どちらにもモチベーション高く取り組むことができます。以前の研究では独立したテーマを設定していましたが、今は多くの場合事業部からの課題を発想のベースとした研究テーマにしており、基礎研究とその応用がシームレスでつながっていると実感しています。
高度専門職制度の発足初期に私も選んでいただき、今はシニアエンジニアの職位に就きました。技術職でも上位の役職だと社内で認知していただけたおかげで自信につながりますし、技術者、研究者のロールモデルでありたいと思っています。直接事業部のお役に立つ仕事も行いながら、先駆的な研究もこなして学会参加や論文執筆で積極的に自身の成果を発信してくことで、後輩やもっと若手の研究者の目標でありたいと感じています。
AI・コンピュータビジョン技術のトップカンファレンスであるIEEE/CVF International Conference on Computer Vision (ICCV) 2023に私たちが執筆した論文が採択されたことです。採択率25%程度のかなり難易度の高い国際会議で、採択の連絡を受けた時には本当に体が震えました。あとにも先にも唯一の経験です。
内にこもらずに外の世界に目を向けて、積極的に出ていくことです。そうすることで自分の研究や業界、社会を俯瞰できるようになります。光栄なことに、人工知能学会の理事に選出いただきました。著名な教授たちや企業の所長クラスの方々と直接言葉を交わして、知識を共有できる大変貴重な機会になっています。
「パナソニックと言えばAI」、認知度を高めたい
AIは全ての人を幸せにできる技術だと確信しています。営業職や事務職であればルーティンワークを大幅に削減できるでしょうし、製造現場では機械の制御や自動化に大きな力を発揮するでしょう。まずは自身の技術や取組の実用化を通じ、誰かのお役立ちに貢献したいと考えています。
研究発表を通じた対外露出や社外連携などを通じて、認知度を高めていけば「パナソニックと言えばAIだよね」と、やりがいに満ちた新しい仲間がAIで一緒に挑戦をしようと自然と集まってくる。さらに自分たちでも人材を育てていくことでもパナソニックのAI開発力をさらに伸ばして、社会を変えていくような大きなお役立ちに貢献したいです。