より精密に、より深部から
材料の高機能化を原子レベルで導く

より精密に、より深部から 材料の高機能化を原子レベルで導く
高度専門職|シニアリサーチャー
角山 寛規

パナソニック ホールディングス株式会社 技術部門
テクノロジー本部 
グリーンイノベーションセンター

Profile

専門領域は物理化学、ナノ物質科学。東北大学でナノクラスターの生成、構造、反応に関する研究で博士号を修め、分子科学の基礎を習得。以来、分子科学研究所博士研究員、北海道大学助教、慶應義塾大学准教授などを経て2020年パナソニックに入社。アカデミアで蓄積した研究を社内に取り込み、製品・商材に関係ある有機材料やナノ材料の開発を通じて、化学の力で新しい事業や社会に貢献できるよう研究を進めている。

※所属・内容等は取材当時のものです。

モノづくりの源流となる材料開発。その開発プロセスで狙い通りの機能を高精度に形成するには、材料を高精密に分析し、制御できる先進技術が不可欠となります。角山さんは、原子や分子を組み合わせ特異な性質を付加するナノクラスター*技術をはじめとする物理化学を応用することで、原子レベルから新材料開発にアプローチしています。アカデミアからパナソニックグループへ――転身を決断したのは「幅広い商材で研究成果を役立てたい」という思いに突き動かされたからでした。角山さんが考える高度専門職の責務を聞きました。

*ナノクラスター:数個から数百個程度の原子、分子が集合した数ナノメーターサイズの大きさの微粒子のこと。原子、分子よりも大きく、バルクよりも小さいナノクラスターは、そのどちらとも異なる特異的な性質や機能を有することから、触媒、電子デバイスなど幅広い範囲で活用されています。

Chap.1
アカデミアから企業技術者へ転身

研究成果の社会還元「やるなら今しかない」

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Q 40代で大学研究者から企業技術者への転身、きっかけは?

転機となったのは、大学の研究成果を社会実装につなげるERATO (国立研究開発法人 科学技術振興機構)主催の産学連携プログラム。当時私は慶應義塾大学専任講師の立場でナノクラスター精密合成技術開発に従事していました。ナノクラスターは原子、分子同士の合成により特異的な性質を有する一方、望みのナノクラスターをつくり上げるためには微細な原子同士を制御できる高度な合成方法が必要となります。連携先の企業と議論を重ね、互いの技術、アイデアが一つ一つ形になっていく様子を目の当たりにするうち、研究成果を学術的価値にとどまらせず、「一つでも多く社会に還元したい。残りの研究人生を考えれば、今しかない」と一念発起し、パナソニックグループの門をたたきました。

Q 培ってきた技術を生かし、当社ではどのようなミッションを?
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プラスチックや金属、液体などあらゆる材料は原子の集合体である分子で構成されています。その分子の組み合わせを分子化学、ナノ材料化学を基盤とした技術で解明し、材料の信頼性、機能向上に結び付けていく。つまり、従来の手法では解明しづらかった材料のメカニズムを原子レベルまでさかのぼって深部からアプローチできることが私の強みだと考えています。

パナソニックグループは取り扱う商材が幅広く、私の部署に持ち込まれるお困りごとも多種多彩です。それらの多くが言葉で説明しきれないような課題、現象が含まれており、対話を通じて自分の言葉でかみくだいて解きほぐしていかなければなりません。「何か手を打ちたくても打てない」、事業会社だけでカバーしきれない領域を原子レベルからアプローチするのが高度専門職たる私の責務だと考えています。

Chap.2
異例のスピードで特許出願を主導

師の教えを忘れず「研究成果を必ず残す」

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Q 企業と大学、プロジェクトの進め方でどのような違いが?

私が入社1年目に加わったプロジェクトで、まず驚いたのは厳密な開発スケジュール管理でした。大学のプロジェクトの多くは、一定の目標を置きながらも期限が明確に設定されておらず、比較的緩やかなスケジュールで進行する事例が多かったからです。常に先手を打ち事業会社の課題を抽出し、スケジュールを細かく切る。そうした約束事を守ることで個々のメンバーに責任感が生まれ、チームが回り正しい方向に進む。過去の考え方やキャリアにとらわれず、一から勉強をし直すことを心掛けました。

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企業技術者の「作法」を教えていただいたのは、入社当時の上長です。「なぜこのテーマをパナソニックが立ち上げるべきなのか。投資価値があり商売として成り立つのか」という観点を徹底的に研ぎ澄ましてテーマを組み立てる、それが企業技術者の責務なのだと教わりました。

Q 角山さんが化学の力で実現したい夢は?
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化学は直接消費者の目に触れにくい技術だと思いますが、材料やそれに付随する機器構成など当社商材で少なからず社会変革を起こせると考えています。プラスチックやゴムといった有機材料は原子レベルから設計が可能であり、例えば、材料に環境保全という視点で機能を付与することで、通常よりも長く使い続けられる商材を生み出すことができます。

パナソニックグループの商材は家電をはじめ、暮らしに身近なものが多いのが強み。環境に配慮した商材を消費者に選択してもらうことで、日々の生活から誰もが自分事として環境保全に寄与できる。そうした機運が各家庭から街、その先の社会へとさらに広がっていけば、より大きなインパクトを起こせるはずでしょう。モノづくりに材料開発から携わることができるパナソニックグループだからこそ、私の強みを存分に生かせられます。

Chap.3
To the Next

2040年に向けた「難題」、どう解き明かす

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通常業務と並行して、今年からPHD技術部門が主導する技術未来ビジョン*のメンバーの一人として、技術戦略構想に挑戦しています。2040年の未来像を自分たちで描き、どのような技術で製品、サービスを生み出せば、ビジネスにつながるのか逆算で考える。技術未来ビジョンが目指すのは、「一人ひとりの選択が自然に思いやりへとつながる社会」。言い方を変えると、限られた地球資源や社会的リソースが無駄なくめぐることで、我慢や犠牲を強いられず、自分も他者にもメリットが生まれる選択肢を見つけられる仕組みを作ること。日々の生活の中にグリーンで安心安価なエネルギー・資源をめぐらせたいと考えています。

私に与えられたテーマである「食」 は、これまで研究対象にした経験がない領域ではありますが、例えばタンパク質もアミノ酸も元は原子の集合体。原子をブロックにして組み合わせて機能を強化していく私の技術が生かせるのではと考えています。未知数で難しさはありますが、このプロジェクトを通して私自身がどのように変化できるのか、ワクワクしています。

*技術未来ビジョン:パナソニック ホールディングス株式会社 技術部門が2024年7月に策定した、技術開発の方向性を定めた長期ビジョン。2040年の未来社会のありたい姿から逆算し、「資源価値最大化(エネルギー・資源がめぐる)」「有意義な時間創出(生きがいがめぐる)」「自分らしさと人との寛容な関係性(思いやりがめぐる)」の切り口での技術開発を進めていく。

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