サイバーセキュリティの先端を行く
常に自問しながら市場開拓に挑む2人

サイバーセキュリティの先端を行く常に自問しながら市場開拓に挑む2人
大庭 達海
大庭 達海

専門:サイバーセキュリティ、現代暗号理論、機械学習
テクノロジー本部 製品セキュリティセンター

岸川 剛
岸川 剛

専門:情報・物理セキュリティ
デジタル・AI技術センター

※所属・内容等は取材当時のものです。

IoT技術の普及、社会のデジタル化が加速する中、急増するサイバー攻撃に対するサイバーセキュリティ技術が注目を集めています。パナソニック ホールディングスが専門的に研究開発を行っているビルセキュリティ、高い安全水準が求められる自動車セキュリティ、この二つの業界で、先端を走る2人の技術者がいます。国際学会での論文採択や国際シンポジウムでの発表など、世界的に研究を評価される2人は高度専門職*に任命され、事業化に向けて地道な研究活動と体制確立に奔走しています。岸川剛さんと大庭達海さんに、リードエンジニアとしての意気込みを伺います。

*高度専門職…パナソニック ホールディングス株式会社では、高い専門性で活躍する技術者を対象に、専門性を評価し活躍を後押しすることで技術による価値創出強化を目指す「高度専門職制度」を2015年から導入。

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見えない攻撃に立ち向かう

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Q セキュリティを専門としている2人。現在の仕事を教えてください。

大庭ビルシステムを主としたIoTセキュリティ技術・事業の開発を担当しています。IoTが進んで外部との接続が増大する現在、悪意のあるハッカーにビルが狙われる危険性も相応に高まっています。外部からの操作によって全館の照明が一斉に消される、セキュリティゲートが解放されるなど物理的に影響をおよぼす攻撃が想定され、事業継続を脅かされる可能性があります。

仮にそうした攻撃を受けた場合、ビル利用者が物理的な被害を受け、事業の継続が困難になる可能性があり、リスク回避・低減のためにIoTセキュリティ技術が必要とされています。私は、サイバー攻撃に対する潜在的なリスクの把握、異常動作や攻撃の検知技術、対処技術の確立を行っています。特に専門としているのが、ビルシステムで利用されるBACnet™プロトコルを用いた攻撃を検知するプロトコルのAI技術開発です。BACnet™は照明や空調など、多様なサブシステムが混在するビルシステムの一括監視やシステム間連携を実現するために構築されたプロトコルなのですが、その性質ゆえに攻撃者もBACnet™レベルでの攻撃を実施することが容易になってしまっており、その攻撃検知が重要な課題になっています。

岸川私はドイツで欧州での自動車を中心としたサイバーセキュリティビジネス事業の開拓、グローバルセキュリティオペレーションセンター設立に向けた体制構築、R&Dを担当しています。ドイツは自動車産業大国で、自動車のサイバーセキュリティに関する法規があり、対策が施されていない車は販売できません。サプライヤーも対策を求められている中で、どうやって当社がプレゼンスを発揮していくのか、市場動向や法律なども含めて調査を行っています。

IoT技術の進歩で、世界中の工場や製品がつながるようになってきました。1カ所でのセキュリティの脆弱性が、世界的に波及して、事業者全体に影響をおよぼす可能性も否定できません。世界中のセキュリティネットワークを包括して管理・保護する、グローバルセキュリティオペレーションセンターの設立が急務で、体制構築のために世界中の担当者と連携を取っている最中です。

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Q 自身の強みはどこにあると思いますか?

岸川自動車のハッキングコンテスト(escar自動車ハッキングコンテスト2016)で優勝した経験があり、自動車ハッキング技術には自信があります。ハッキングの防止にはハッカーの手口を知らねばなりません。手の内を学べば、おのずとその防止策も分かってきます。私の専門は、車のシステムをハッキングして、外部から操作する技術。車の動作や通信技術、自動車ネットワークの構造など多様な知識が求められます。この分野を長期間継続してやっているので、私ならではの技術だと自負しています。ドイツに来る前は国内のカーメーカーと仕事をする機会が多く、技術的な部分も含めて信頼してもらっているからこそ、いろいろな話が聞けたと思っています。

大庭私は、機械学習や暗号理論、サイバーセキュリティと広範な知識を持っていますが、実は、一つ一つの分野の知識量は多くないと自分では考えています。例えば機械学習に関してはグループ内にもプロフェッショナルは数多くいますし、私はそうした人たちのスキルには届かないなと。一方で、大学で暗号理論に、前職で機械学習に、そして今はサイバーセキュリティに携わっている経験から、これらの「組み合わせ」には自信があります。純粋に一つの分野を専門的に深めてきた人にはない、ジェネラリストとしての発想が自分の強みだと思っています。

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伝える、つなげる

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Q 専門職として新設された高度専門職、その魅力ややりがいは?

岸川高度専門職制度は任命に際して、期待されている仕事がはっきりと明示されるので、自分自身のこれからの方向を定めやすいと思います。選ばれること自体、会社が自分を評価してくれている証拠。研究への大きなモチベーションにつながっているので、意識の部分で変化が大きいなと思います。実際に、任命されてから後身の育成を意識して取り組むようになりましたし、自分の技術を継承する意識をより強く持てるようになりました。研究開発と並行して、粘り強くやっていきたいと思っています。

大庭仕事の軸が分かりやすいことがありがたいと、私も感じています。「技術を事業に結びつけるために、常に牙を研いでおけ」というメッセージだと受け止めています。任命されてから、研究に費やす時間が増えましたが、一方で、プレッシャーも感じていて(笑)。継続して研究成果を出し、論文としてアウトプットするスキームを自分の中で構築するのが当面の課題だと考えています。

パナソニックグループは研究開発に対する「選択と集中」がはっきりしていて、動きやすいと感じています。自分だけではなく、他の部署が培った技術を水平展開してくれますし、しっかりとした縦軸に、すそ野が広い横軸が備わっているのが、パナソニックグループの魅力ですよね。全員が一つの方向に向かって研究を進めていく姿勢は技術者としてありがたいことです。

この技術をどう役立てるか、自問を続ける日々

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Q 1人の技術者として、大切にしてきた信念やモットーは?

大庭常に自問しているのは「この技術はどこで、誰が使うのか」。アカデミアでの研究とは異なり、企業での研究開発は「使える」という観点が必須です。直属の上司は「それが何の役に立っていくのか」と常にユースケースを尋ねてくれるので、私の考えのベースとなっています。研究開発においては、あれもこれもと新しい成果を追い求めてしまいがちですが、確実に正しいと言える貢献を含んだ成果を残し、伝えることを意識しています。堅実な研究結果の上には、さらなる研究を積み重ねられます。後進に対して、土台になるような成果を出して、論文として発表していくことが、自分の使命だと自負しています。

岸川セキュリティの提案の際にお客さまの要望に対して過剰投資とならないようにすることです。本来は守るべき資産と、それが侵害される可能性を評価した上で、どこまでセキュリティ対策を行うかを決めていかなければいけません。自動車セキュリティに関していえば、最終的にコストを負担するドライバーがどこまで費用を許容してくれるかを考える必要があります。費用対効果も勘案して、積極的にこちらから良い提案をやっていかなければと常々考えています。まず、自分たちの現状を知ることが何より大切。自動車業界で新しいものを作り出すには、テーマ探索が一番の難題なんです。でも、そこをきちっとやることがイノベーションへの第一歩だと思っています。

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安定した事業継続を支える、ブランド構築へ

大庭昨今の情勢を考えるとオフィスビルや商業ビルでサイバー攻撃にさらされる危険性が増えることは想像に難くありません。安定した事業継続には、高度なセキュリティ体制が構築されたビルディング環境が必要不可欠で、将来的に大きな市場が生まれるでしょう。「ビルセキュリティならパナソニック」と国内外で評価してもらえるよう、事業開発と技術開発の両輪で動かし続けることが大事だと考えています。

究極的な理想は「セキュリティ不要の社会」

岸川ドイツに赴任し、今は一人で顧客探しをしているところですが、早く現地でしかできない研究や調査を始めようと考えています。欧州のR&D体制の強化や拡大も私の役割と考えているので次につながる人脈づくりや人員確保に取り組んでいきたいです。究極的には、「セキュリティが不要の社会」をつくりたいと考えています。ハッカーが存在するのは、儲かるから。技術だけで解決できるとは思いませんが、「ハッキングなんかをやったって得しない、全うに働く方が良いんだ」と実感できる社会にしたいです。