パナソニックがWell-beingにトライする意味とは

(「Aug Lab」特別対談・後編)
パナソニックがWell-beingにトライする意味とは パナソニックがWell-beingにトライする意味とは

聞き手(左):安藤健 氏「Aug Lab」リーダー (パナソニック株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室)語り手(右): ドミニク・チェン氏(早稲田大学文化構想学部 准教授)

パナソニックの「Aug Lab」を立ち上げたAug Labリーダーの安藤とテクノロジーと人間の関係性を研究し続ける早稲田大学文化構想学部准教授のドミニク・チェン氏による特別対談。後編では進行中のプロトタイプの感想や、パナソニックがWell-beingにトライする意味や期待することを伺った。

安藤:ここからは、現在進行中のプロトタイプついて、コメントなどをいただければと思います。

チェン:CHEERPHONEは、2019年11月に会津若松で開催され、僕も講師を務めさせて頂いたハッカソンで生まれたアイデアですよね。この時、事前のインプットレクチャーで僕の方から共在感覚、他者とともに在る感覚の話をしました。これは実は、安藤さんと何時間でも語り合いたいテーマでもあります。ソーシャルプレゼンス理論という研究領域があり、チャットやビデオカンファレンスなど、70年代から「遠隔コミュニケーションで他者の存在を感じられるか?」という命題と研究者たちが向き合ってきました。
共在感覚は、ソーシャルプレゼンスにとても似ている、人類学者の木村大治先生が作り上げた概念です。文字通り、他者と共に在る感覚を指していて、それ自体は中立的なものです。例えば、アフリカのある村の人たちは、150mくらい離れた広場のベンチに座っていても会話ができてしまう。別の場合は、目の前で演説をしている知人を無視するというように、共に在る感覚を断ち切ることもできる。つまり、彼らは他者と一緒にいるという感覚を身体、文化、慣習によって調整する術を身につけているのです。CHEERPHONEのプロトタイプは、スポーツ観戦という文脈で、共在感覚を上げる、下げることをテクノロジーでやっているわけです。これからプロダクトとして実装され、社会に飛び出してからどのような反応が出るのか、とても楽しみなプロジェクトですね。

安藤:babypapa」はいかがですか?

チェン:ロボットが3体であることがおもしろいですよね。今のコミュニケーションロボットは1対1という形で成り立つことが多いですよね。

対談風景

3体いることで、子どもはある種、おままごとをしてるような感覚になるのではないでしょうか。たとえばお父さん、お母さん、兄弟と見立てたロボットたちに、子どもたちがどのように向き合うのかを想像するとよりワクワクします。子ども、赤ちゃんのイマジネーションを喚起するために働くのだとしたら、すごくいいなと思います。

安藤:1体では、しゃべることやコミュニケーションを強要するロボットになってしまいます。3体いれば、ロボットだけでもコミュニティが出来上がるというのもポイントだと思っています。

チェン:ロボットたちが勝手にやってる感を醸し出すのは、これに触れる人間にとってすごく大事だと思います。自分が介入しなくても、この3体のロボットは自律的に存在している、単なるおもちゃではないという認知が生まれれば、子どもとロボットたちの間で生命的な関係が結ばれるのではないでしょうか。

安藤:実験してみてわかったのですが、3体いることで、なぜか賢く見えるのもおもしろいなと。

チェン:そうなんですか?

安藤:2体だと2体の間でやり取りが発生し続けて、それがアルゴリズム感が出るやりとりになります。3体だと1体は休んでいるときもありますし、3体は揃って同じリアクションをするとテクノロジー的には大したことをやっていなくても、生命感や考えている感じが出るというかコミュニティ感が一気に出る気がするんですよね。

チェン:なるほど、面白いですね。移動はしないのですか?

安藤:現時点では、あえて移動させないという形で進めていますが、動くからできることもあり、ちょっと悩んでいます。ロボット屋というのはすぐに動かしたくなってしまいます。どう思いますか?

チェン:僕は今、ぬか床ロボット「ヌカボット」というものを開発しています。

ぬか床ロボット「ヌカボット」

人間の問いかけに答えたり、自分からしゃべるぬか床なのですが、あえて移動しない形を選びました。動くことのできないぬか床を人間が手入れをして、面倒が見る。人間が介入することで、ぬか床の中の微生物たちへの愛着を増すことを目的としています。babypapaの3体に関しては、家の中を自由に移動しまくる姿も見たい気もしますね。

安藤:次に紹介するのは「TOU」です。風の通り道という意味です。
使い方はいろいろなのですが、オフィスやホテルのロビー、もちろん、自宅に置くのもいいなと思っています。パナソニックとの相性もいいコンセプトだと思っています。

チェン:こういうモデルルームがあったら人気が出るかもしれないと思いました。瞑想のための空間がより多くの世帯に実装されれば、大きなインパクトが生まれるのではないでしょうか。

安藤:これらのプロトタイプも含めて、パナソニックの「Aug Lab」の取り組みをどう感じますか? また、ドニミクさんにはパナソニックが会津若松で実施したワークショップもご支援頂いています。パナソニックがWell-beingにトライしていく意味をどう感じていますか?

対談風景

チェン:会津若松でのプロジェクトを通じて、とにかくスピード感があるという印象を持ちました。CHEERPHONEは会津若松のワークショップで出てきたアイデアですが、ワークショップが終わってから3ヶ月で試作機としてここまで出来上がっているのはすごいなと。課題はここからどうマーケットインしていくかですよね。ウェルビーイングを標榜しながらパナソニックという会社がプロダクトを作ることがすごく大きな意味を持つのは、コンシューマーの生活へダイレクトにものを入れていけるからです。これが研究という文脈だと、非日常的な実験結果をもとにしながら、その結果がいかに日常にとって大事なのかを主張し続けなければなりません。パナソニックはそれぞれの生活の中にすでに入っていて、そこで得られるデータや知見を膨大に持っています。私自身、完全なプロダクトなど存在しないと思っています。どんなプロダクトも大局的な目線で見たら、プロトタイプだと思うんですよね。アカデミックな研究マインドと企業の社会実装マインドが互いに連携できるからこそ、テクノロジーが生活を支えられるようになります。片方だけが強いのでは、うまくいきません。そのバランスが取れているという点は、大きな強みだと感じています。

安藤:ありがとうございます。引き続き、“わたしたち”のウェルビーイングの実現に向けて、一緒に活動させてください。