デザイン視点から見た「Augmentation」(前編)

~日本らしさを取り入れたパナソニックにしかできない「Augmentation」にしたい~(「Aug Lab」特別対談)
デザイン視点から見た「Augmentation」(前編) デザイン視点から見た「Augmentation」(前編)

語り手(右):臼井重雄(パナソニック株式会社デザイン本部 本部長)聞き手(左):安藤健「Aug Lab」リーダー (パナソニック株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 課長)

パナソニックでは、新たな取り組み領域として人そのものの能力を高めるための「Augmentation(自己拡張)」の取組みを始めてます。これまで培ってきたロボティクス技術などを活用しながら、社内・社外関係なくオープンラボ活動として、一緒に取り組むことで「新しい何か」を生み出すことを目指している。今回は、「Aug Lab」を立ち上げたLabリーダーの安藤とパナソニック全社のデザイン戦略を統括するデザイン本部トップの臼井との対談の様子を前編・後編に分けて掲載していく。前半は、「Augmentation」という活動についてデザインの目線で感じることや、「Augmentation」を通してどのような「Well-being」を生み出すことができるのか、これまで求められていたデザインと、今後求められるデザインとの違いなどのテーマに触れる。

Q. デザインの視点からみて「Augmentation(自己拡張)」の活動についてはどのように思うのか

安藤:「Aug Lab」の立ち上げ経緯の話になるのですが、もともとロボットをやっている中で自動化・や効率化という話になっていることに対し、個人的には、「本当にこれでだけで世の中が良くなるのか」という疑問を抱くようになりました。そして、自分がしたいことを楽しくできること、それをサポートすることがロボット技術の役割の1つになるのではないか思いはじめています。みんなが想像するようないわゆる未来的なロボットという形ではありませんが、ロボットで培った「ロボット技術」として「Augmentation」という領域への貢献ができるのではないかと期待しています。
デザインの視点からはロボット技術や「Augmentation」という領域はどのように見えてますでしょうか??

臼井:今、デザイン本部が取り組もうとしている「デザイン思考」は、まさに「Augmentation」のアプローチと同じです。これまでのようにスペックやコストだけを考えてやってきた商品開発ではなく、お客様視点で考えたときに「本当の価値ってなんだろう」ということに行き着きます。

対談風景

その点は相通ずるものがあると感じています。世の中がこれだけ便利にそして豊かになる中で、機能的にすぐれたものをたくさん作れば良いといのではなく、より質の高いものを提供していきたいと考える状況下で、すごくぴったりなテーマだと思いました。

安藤:私自身、デザイン思考に対する印象が変わってきています。これまでは例えばダブルダイヤモンドみたいなプロセスをデザイン思考と呼んでいると解釈していました。

対談風景

RCA (Royal College of Art)などのワークショップなども経験させてもらい(関連記事:ロンドンで「Augmentation」をテーマにデザインワークショップを実施)、「人とは何なのか」と本質を探っていく作業そのものをデザイン思考というのではと考え始めています。

臼井:その通りですね。暮らしを豊かにしよう、環境を良くしようという中で、パナソニックが社会に提供や貢献するべき領域はどんどん広がっていますが、そこにいる人が本当に幸せな暮らしや社会の中での成長を感じることができているのか、環境といい関係にいるのかなと考えていくと、結局、人にとってはその人自身がどれだけ良い体験ができ、幸せになり、豊かになっていくことが大切だと感じています。

Q. 「Aug Lab」のもう一つのテーマ「Well-being」。パナソニックらしい「Well-being」とは?

安藤:少し話は変わりますが、「Aug Lab」が目指す提供価値として、「Well-being」を掲げています。デザインの立場からも「Well-being」に取り組まれていると思いますが、「Well-being」という価値はどのようにすれば提供できるのでしょうか?

臼井:時代によって商品の必要性は違っています。日本だけでなく、世界中の作り手がユーザーの求めるものを追求しています。そこで私自身が意識したいのは、日本らしさを入れることです。

対談風景

たとえば、フィジカルな部分でいうと、パワーやスピードではなく、キレやしなやかさ、所作の美しさを取り入れたいですし、ソフトという表現なら、粋やわびさびを入れたい。これってすごく大事なものだと思っています。いかにスピーディーに、いかにパワフルにではなく、すごくしなやかなのにキレがあるものにしたい。たとえば、お刺身は包丁の入れ方ひとつで味が変わると言われています。日本人だからこそできること、日本人ならではの感性的なものは、「Well-being」なのではないかと考えています。日本人のちょっと引いた感じやさりげなさは粋ですし、すごく気が利いていると思います。私たちにしかできない拡張の方向性を出すことができれば、それがオリジナリティに繋がると感じています。

安藤:粋、わびさびはとても日本らしいキーワードですし、日本人特有の感性ですね。では、パナソニックとして日本らしさを強めていく方法はあると思いますか?

臼井:パナソニックという会社の根っこにはそういう部分があると思っています。「お客様第一」を大切にしてきたのは、人間中心で事業を設計してきたことを表していますよね。どうやって人に喜んでもらうかにこだわるというのは、そういった考え方が根付いている証拠だと思います。利便性だけを追求するのではなく、使うことで人の生活が豊かになるという商品を通じての作り手と使い手の関係性はすごく美しいと感じます。これはデザインだけの話ではなく、会社全体で取り組むべきことだと考えています。たとえば「ロボットなのに、こんなにしなやかに動くの?」「ロボットなのにこんな粋なことをしてくれるの」となれば、みんなの概念は変わります。その方向に拡張していくのはとても面白いことだと感じています。

安藤:パナソニックだからこそ実現できる新しい領域がありそうですね。後半では、パナソニックの強みや果たすべき役割などについても聞かせてください。

 後編に続く