パナソニックの「Aug Lab」を立ち上げたLabリーダーの安藤とデザイン本部本部長の臼井による特別対談・後編では、パナソニックだからできる「Augmentation」事業の特徴、臼井さんにとっての「Well-being」とは、さらに、「Aug Lab」に期待することについて語ってもらった。
Q. 「Aug Lab」はオープンラボ活動として進めていますが、社外連携の意義はどんなところにあるのか?
安藤:このプロジェクトでは従来とは異なり、社外のパートナーとの共創活動として推進をしていますが、社外の方との繋がりは、「デザイン思考」の考え方を進めるうえで、どういう位置付けになると思いますか?
臼井:これだけ人の価値が多様化する社会の中で、人を中心に考えるときには多面的視点からものを見ることがすごく大事だと思っています。
たとえば、地球や富士山の美しさは、離れてみないとわからなかったりするものです。私自身、上海に9年住む中で、日本の良さを再確認できた一人です。パナソニックの良さを外部との連携によって引っ張り出して欲しいと考えています。パナソニックの中にいると、すごく武器になるもの、もっと活用すべきもの、そして当たり前になっていることで強みや良さを忘れてしまっているという現状があります。外部からの視点でそれを発見してもらい、連携していくことで、強みはより強く、そして新たな気づきも出てくるのではないかと、外部との積極的な連携について可能性を感じています。
Q. 「Augmentation(自己拡張)」の領域でのパナソニックの強みはどこにあるのか?
安藤:たとえば、パナソニックの良さについて、臼井さんはどこにあると思っていますか?
臼井:ずっとモノを作り続けてきたこと、日本らしさはあると思います。今、モノからコトへと言われる中、丁寧に真面目にお客様のことを考えて取り組んできた歴史、モノづくりで培ってきたスピリットは会社のコアな部分に染み付いていると感じています。0→1ばかりが大事なことではありません。もっとフレキシブルに考えることが大切だと考えています。「Augmentation」という言葉を聞いて、何か新しいことをやるのではないかと考える人は多いと思います。でも、そうではありません。今までやってきたことをさらに活かすことが重要だというのが私の考え方です。
安藤:パナソニックの強みは、今まで培ってきた人中心の考え方かもしれないですね。
臼井:たとえば、自動車メーカーが「Augmentation」を考えるときには領域には限りがあります。しかし、幅広い事業領域を持つパナソニックにおいては、人中心に考えたときには、事業のカテゴリから考えなくていいのが強みになっていると思います。たとえば、素直に人中心で考えたときに、最初のインサイト、課題抽出力が大事なのですが、それさえ分かってしまえば、得意なフィールドに持っていくだけでいいわけです。人ありきでモノを作り、サービスを提供することを自分たちの領域で考えることができることは強みですね。あとは、技術ありきになるのではなく、お客様が気持ちよくなれる論理で考えることがより重要になってくると考えます。アプローチを変えれば、アウトプットも変わってくるわけですから。そういった意味でも「Augmentation」といった新しいアプローチをしていかないと、これからのモノづくりは厳しいのではないかと考えています。
安藤:そうですね。新しい視点で新しい課題を発見することが大切ですね。
デザインや私たちエンジニアが同じ立場でプロジェクトに関わることはどのように思われますか?
臼井:理系と文系、ハードとソフト、デザイナーとエンジニアなんて分ける必要はありません。そこを融合することで、いろいろなことをこのプロジェクトを通して発見していくことが大事だと思います。
安藤:職種に関係なく、パナソニックという会社全体でみんながそういう課題抽出のスキルを持つべきということですね。
臼井:パナソニックには、モノを作り、人を驚かせたい、なにかおもろいことをしたいという人が集まっています。いろいろな人を巻き込んで、作る側がいろいろなことを楽しみながらやることで、結果お客様がよろこぶ。作る側も楽しいし、使う側もうれしい。それが根っこにあるこの会社で、ここはそれが発揮できるステージ。おもろいことをやっていきたいと思っています。
安藤:臼井さんにとっての「Well-being」は「おもろいことをやること」になりますね。
臼井:モノづくりをしていた会社がいきなり「Augmentation(自己拡張)」なんて、なんかおもろいこと言い出した、と感じずには入られません。ワクワクさせられて、超健康になった気分になります。まさに、「Well-being」を実感しましたね。
毎回同じようなアプローチで、ちょっとデザインを変えるだけではつまらないし、心が豊かになりません。日本が元気に盛り上がっていた頃には、たとえば「火がないのに温まる」電子レンジはまさに驚きだったはずです。お客様に見せたらびっくりするはずと期待しながらモノづくりをする作り手と、それを手に取り驚き、そして幸せになる使い手。この関係性をおもしろくしなければ、モノづくりに魅力はありません。この会社には、お客様を幸せにしたい、びっくりさせたいという思いを抱えた人がたくさん集まっています。僕自身、この会社のキーワードは「おもろい」だと思っています。ワクワクがあるから、楽しいなと日々感じています。
Q. 「Aug Lab」に期待することは?
安藤:モノを生み出すだけでなく、そこにたどり着くプロセスも大事にしていきたいと考えています。このインタビューもその一つですが、まだ特に何もプロトタイプすらない中で、世の中に向けてビジョンを発信していくことも大切だと考えています。
臼井:スピードや量よりも、ストーリーが大事です。ワクワクを感じてもらうためにも、プロセスはどんどん見せた方がいいと私は思っています。こういうアプローチで出てきたアウトプットの美しさは、デザインの立場からすると、表現するいいチャンス。出てくるアウトプットをこれまでと変えたいと考えているデザイナーはたくさんいると思います。それができる環境だからこそ、この機会に自由にやらせてもらいたいと思っています。プロセスを含めて私自身が楽しみたいプロジェクトです。アウトプットで「おぉ!」となるような、驚くものを作るために、いろいろな引き出しを引っ張り出してもらえたらと期待しています。