能力に隠れている潜在的な感性をテクノロジーで支援できたらおもしろい!

(「Aug Lab」特別対談・前編)
能力に隠れている潜在的な感性をテクノロジーで支援できたらおもしろい! 能力に隠れている潜在的な感性をテクノロジーで支援できたらおもしろい!

語り手(左):西村勇哉氏 (NPO法人ミラツク 代表理事) 聞き手:安藤健「Aug Lab」リーダー (パナソニック株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 課長)

パナソニックでは、これまで培ってきたロボティクス技術を従来の活用法である自動化・高度化だけを目的とせず、新たな取り組み領域として人そのものの能力を高めるための「Augmentation(自己拡張)」にも活用する取組みを始めている。社内・社外関係なく一緒に取り組むことで「新しい何か」を生み出すことを目指している。「Aug Lab」リーダーの安藤と、既にある未来の可能性の実現に取り組むNPO法人ミラツクの代表理事西村氏に、「Aug Lab」立ち上げ当初に行った「感性価値の概念整理」のプロセスを振り返り、そこで得たものについて語ってもらった。

安藤:改めてミラツクさんの事業内容を教えてください。

西村:事業内容として3つの大きな柱があります。1つ目は共創プラットフォームの構築、2つ目はイノベーション創出のための情報基盤の生成、3つ目は未来構想の実現です。ミラツクのプラットフォームは、起業家もアカデミアも民間も、行政も入り組んだ、異なる立場、業種、地域、セクターの実践者の共創を生み出すコミュニティなので、ある意味、ぐちゃぐちゃに入り組んでいるところがポイントです。また、リサーチをベースに何か新しいことを立ち上げたいという方に役立つような情報基盤の生成では、インタビューなどによる質的データの形成を中心にまとめきるのが特徴です。情報の本質とは何かを考えて、どんなことを頭に入れ、どんな情報がベースとなる集団を作れば良いのかを考えながら、未知の事業やプロジェクトの実行支援をしています。

安藤:ミラツクさんには「Aug Lab」立ち上げ当初に「感性価値の概念整理」をしていただきました。Labメンバーでは、通称「曼荼羅」と呼ばれているものですが(笑)。こちらの作成プロセスを振り返っていただけますか?

図:kansei Augmentationに関わる領域円環図

図:kansei Augmentationに関わる領域円環図

西村:最初に「Aug Lab」には「感性や感覚」という抽象的なテーマがあったのですが、まず出てきたのは「感覚って何ですか?」という疑問です。これを考え始めると、かなりたくさん出てきてしまうので、感覚には生理的なもの、精神的なもの、それに対する刺激剤もあります。ある程度網羅したところでも、どこに答えがあるのかわからない領域です。まずは感覚について、可能な限りインプットしてみようということになり、まずは感覚に関するものを大量に集めることになりましたね。

安藤:どんな風に集めたのですか?

西村:個別の細かいものをたくさん集合させれば全体が見えるとも限らない。ある程度全体性を持ったもので、感覚を扱っているものを集めることにしました。今回選んだ収集方法は「書籍」です。経験から生まれる感覚、新しい感覚、生理的感覚、そして集団としての感覚など、とにかく諦めずに集めて、そこに書かれている感覚の説明をどんどん抜き出していき、データベース化していきます。そして、整理して構造化していく。

安藤:大量の書籍のリストを見て、大変なことをお願いしてしまった、と思いました。

西村:情報の収集と精査はいつものことなので、特に苦ではなかったです。おもしろかったのは、このテーマにミラツクの様々な領域の研究員達が興味を持ち、積極的に参加してくれたことです。

対談風景

人間って「感覚は大事」と思っているけれど、なぜ大事なのかきちんと考えたことはないですよね。いいテーマだったと実感しました。

安藤:では、この曼荼羅の活用についてはどんな展望がありますか?

西村:情報としての分析、構造化はある程度はできたと思います。あとはどうアウトプットに結びつけるのか。例えば、こういう感覚を組み込んだ時に、普段の歩く、食べるといった行動にどんな新しい味付けができるのかをワークショップとしてやってみました。日常の行動に細かく分けた感覚を組み込んだら、ありそうでなかったものが出てくるのではないのかな、と思いました。その一方で、ある一定のテーマに注目するために、この感覚を深掘りしようと焦点を絞る。その結果ダメだったものにバツをつけて、感覚のどの部分がロボティクスや現状のテクノロジーと相性がいいのかを考える。このダメなところにバツをつけることが大切だと思います。また、身体的な感覚は生理的な感覚に支えられていて、外界があるから生理的な感覚があるというのはおもしろいですよね。精神性があるから解像度が上がる。レオナルド・ダ・ヴィンチはまさにその象徴みたいなもの。絵を描くけれど、サイエンスもやっていてテクノロジーにも経験値を持っていて、それらを統合して「モナリザ」や「最後の晩餐」が生まれたんだなと。感覚って人間である限り常に持っているものですよね。ロボット工学者もピアニストも、みんな何らかの感覚を持って生きている。

ワークショップ風景

安藤:潜在的に感性があって、それは能力に隠れているという感じですかね。そこをうまく支援してあげられるようなデバイスや仕組みができたらおもしろいと思っています。「曼荼羅」は、私たちがまだ気づいてない感覚や感性の使い方や認識の仕方を引き出してくれる助けになると思います。
実際に、ミラツクさんと一緒に行ったワークショップから出てきたアイデアのプロトタイピングも進行しています。今後も「Aug Lab」の活動に活用していきたいと思います。

 後編に続く