パナソニックの「Aug Lab」リーダーの安藤と既にある未来の可能性の実現に取り組むNPO法人ミラツクの代表理事西村氏による対談インタビュー後編。「Aug Lab」立ち上げ当初に「感性価値の概念整理」の作成プロセスを振り返った前編に続き、後編では、「Augmentation(自己拡張)」で解決したい課題、解決するために必要なこと、「Aug Lab」の取り組みに期待することを伺った。
安藤:今度は「言葉」について少し伺いたいと思います。「Augmentation(自己拡張)」とか「kansei Augmentation(感性拡張)」といった言葉はこれからどんな意味をなすと思いますか?
西村:実は今、新規事業の1つとしてメディアを作っているのですが、プロトタイプを作っては壊すというのをやっています。今のメディアの「何がイヤなのか」を改めて考えながら。
人によると思うのですが、例えば、書籍は美しいのにWEBのメディアは美しくないと感じています。
安藤:美しいというのも感覚ですよね。
西村:はい。先日、デザイナーではないデザイン研究者、音楽家じゃない音楽研究家の方とお話をする機会がありました。テーマは「良いデザインとは」と「最近の音楽について」です。
安藤:なかなかおもしろそうですね。「良いデザインとは」どんなものなのでしょうか?
西村:伺った話に出てきた内容だと、機能性、倫理性、美しさの3つが同時かつバランスよく実現できること、それが良いデザインということでした。美しさって、経験的な価値ですよね。誰にも教えてもらってないですし、特別に教育を受けたわけでもないのに、なぜか身についている経験的な価値、これっておもしろいなと。
安藤:「最近の音楽について」は、何か参考になる内容がありましたか?
西村:役に立つかどうかを考えすぎて、楽しいとかエンターテインメントの価値に入りすぎることで逆につまらなくしていると指摘していました。役に立つことへのフォーカス自体が音楽自体をダメにしていると。そこで今度は、つまらなくなってきていることに気づき始めた人間が、つまらないものに価値があったのでは?と思い始めている。その戻し方っておもしろいですよね。
安藤:なるほど。私たちが何気なく行っている日常のWell-beingに着目しているのと通じるかもしれませんね。では話は変わりますが、西村さんが「Aug Lab」の取り組みに期待することは何かありますか?
西村:存在を知ってもらうことってすごく大事だと思っています。立ち上げのときは秘密基地でもいいけれど、ある程度動き始めたらハブ感が出たほうがいいと思っています。
そうなると、名前が必要かなと。名前が決まると物事が早く動き出す。「Aug Lab」だったら、「Aug Lab」を徹底的に押す、そういう名前が必要だと思います。外から見たときに「ここは何をする場所なのか」意識しやすくなるのがネーミング。だから、やっていることに名前はつけた方が絶対にいいです。
安藤:「Augmentation(自己拡張)」を進めるにあたって、西村さんの中で大きなキーワードはありますか?
西村:さっきの話につながるのですが、一つは美しさです。完全に抽象化されているのに、人間って美しさの違いがわかるという不思議。私自身は「腐っているものは美しくない、腐っていないものは美しいと考えて、腐っていないものを食べる」という美しさの考え方が好きです。役に立たない領域に入っている「美しい」が、実は、機能性と密接に関わっている。とても面白い概念ですよね。
安藤:ありがとうございます。「美しさ」について突き詰めて考えるということは、エンジニアはなかなか行わないアプローチなので、「機能性」に加え、「美しさ」も両立させる必要があると気づきました。「感性や感覚」については抽象的で扱いが難しい領域ですが、一旦、円環図として概念を整理いただいたことで、「Aug Lab」の研究も一歩進んだ気がします。今後ともどうぞよろしくお願いします。