半年間の「Aug Lab」での活動を振り返って

~「Aug Lab」の成功の鍵は「本気で人と向き合う覚悟を持つこと」~
半年間の「Aug Lab」での活動を振り返って 半年間の「Aug Lab」での活動を振り返って

パナソニックの「Augmentation」(自己拡張)の領域における価値探求プロジェクトの「Aug Lab」を立ち上げたLabリーダーの安藤健。活動開始から半年が経過した「Aug Lab」の成果や課題を振り返りつつ、今後に向けて目標や展望について語ります。

今、改めて考える「Aug Lab」が目指すもの

「人が人らしく生きるにはどうしたらいいのか」が私たちの向きっている「問い」です。テクノロジーによるオートメーション(=自動化)は、確かに効率や生産性は上がりますが、それだけでは人間らしく生きること、自分がしたいことができる社会を作ることは難しいです。効率が優先されるがために、人間が本来持っていたいと思う「自分の力でやりたいことをする」「自分自身の可能性を最大限使い切る」ことが十分できていないという人が多い。だからこそ、テクノロジーが人に対してできることは何かをしっかりと追求していきたい。

また、「Aug Lab」を半年やってきてより強く思ったのは、自動化することと自分でやることのバランスが大事だということ。このバランスを社会、組織、家族といった集団の中で個人それぞれが求める最適な状況を作り出すための活動、それが「Aug Lab」が果たすべき役割と考えています。

立ち上げから半年の活動を振り返って

自己拡張やオーギュメンテーション(Augmentation)と、言葉で言うのは簡単ですが、人と向き合うこと、人を中心に本気で考えることに向き合えないのであれば、この「Aug Lab」はうまくいかないと強く実感しました。

インタビュー風景

6月に訪れたイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)(関連記事:ロンドンで「Augmentation」をテーマにデザインワークショップを実施)での経験がそのような気持ちを決定づけたと言っても過言ではありません。デザイン思考の本場と言われる場所で、ロジカルかつ最先端のアイディエーションメソッドを教えてもらえる、そんな気持ちで参加したのですが、実際は違っていました。

例えば、初日にヨガのプログラムがあったのですが、一体何が伝えたかったのかは私には十分わかりませんでした(笑)。ただ、実際に体験してみると、自分の手の位置すらよくわからず、自分の体すら自由にコントロールできないことを痛感しました。「自分のことすらわかっていないのに、人にアプローチするプロダクトが作れますか?」「自分自身としっかり向き合っていますか?」「人を知るってそんなに簡単ではないぞ」と問われたような気がしました。逆に、人の欲求や欲望、偏愛というようなところに真正面から向き合う勇気を持たないといけないと感じました。

きちんと人と向き合える覚悟をしっかり持つこと、人に対してのプロダクトを作ることで私たちが本当にアプローチするべきことは何かを考えさせられたターニングポイントとなる体験でした。

プロジェクトの進捗について

現在、社内で3テーマ、社外で2テーマのプロジェクトが次のフェーズとして、実際のユーザ候補への提供価値の検証に向けて積極的に進んでいます。

インタビュー風景

まず、社内では大きなワークショップを3回やり、出てきたアイデアはトータルで500個を超え、「とにかくアイデアをたくさん出した」という印象です。多くのアイデアを目の前にして、Labのメンバーからプロトを「創りたい!」と手を挙げたメンバーがたくさんいたことは、素直にうれしかったです。まずは、12件のプロトタイプを制作することになりましたが、プロトタイプの段階では批判的なことは言わない、と心がけました。まずは、メンバーのモチベーション優先で進めることにしたのです。最終的にはプロトタイプ12件から下記の3テーマへフォーカスしました。
・「歩くを再定義するプロジェクト」
・「笑顔が生まれる瞬間を捉えるプロジェクト」
・「味覚を拡張するプロジェクト」
この3件が現在高いレベルのプロトタイプを作成しながら進行中です。

社外では、共同研究パートナーの公募に対し、15件の応募がありました。そのなかから、ベンチャー企業のコネル社と慶応義塾大学の2件を採択しました。(詳しくは、『2019年度「Aug Lab」共同研究パートナー公募結果について』 をご覧ください)

社内と社外とで合計でプロジェクト5件という当初の目標をクリアできたので、目標達成率としては100%と言えます。しかし、本当の意味での進捗度という点から見ると、70%くらいと評価しています。「Aug Lab」だけの問題ではないですが、大企業におけるオープンイノベーションは容易ではないという現実を突き付けられました。例えば、時間が掛かったのは、オープンイノベーションで進めるための社外の方との契約です。今回は、知財や法務の専門家の力強いサポートを頂きながら、良いパートナーそのハードルを乗り越えたことで、改めてスタートラインに立てたと実感していますし、今後に向けての大きな成果物であったのではないでしょうか。

「Aug Lab」で感じたオープンイノベーションの価値と直面している課題

社外のパートナーの方々はビジネス、テクノロジー、クリエイティブといういわゆるBTCをバランス良く持っていると感じました。

インタビュー風景

パナソニックの社内には、どれかが突出した人はたくさんいますが、BTCのバランスが取れた人はそれほど多くはありません。このバランスを高いレベルで持った人がいるだけで、こんなにも早くプロジェクトが回るものなのかと実感すると同時に、自分たちに足りていない部分を思い知らされました。

「Aug Lab」の今後の展望について

現在、「Aug Lab」が直面している課題は、「人と向きあう覚悟を持つ」「自分のテーマを見つけ出す」「社会実装への道筋をつくる」の3つ。当面は引き続き、アイデアを出し続けることが大切だと考えています。フェーズが上がったものはもちろん、次のフェーズに上がらないものに関してはそこで終わりにするのではなく、継続的にアイデアをアップデートし続けていきたいです。そして、フェーズが上がったものに関しては、誰のWell-beingに貢献しているのかを明確にし、社外の方々に評価していただけるところまでたどり着きたいと考えています。そのために展示会などに出すといったアウトリーチ活動までしっかりと見据えています。

今後に向けて一番やりたいことは、Well-beingの定量化・体系化のベースを固めていきたい。一般的な定義があるものの、これを綺麗に数式で出すことは難しい。しかし、いろいろ分解することで、どのようにカテゴライズするか、セグメントを切るという話ができれば、計測方法も見つかると考えています。これは私たちの目指す「生活の質」(QOL)を上げることは、どれだけの価値があり、生活の質をどう測るのかということにも関わってきます。金銭的な価値も含めて、目に見えない価値を明確にすることは大きな課題のひとつだと思っています。「測れないものは制御できない」と言われますが、それを測る取り組みはやっていかなければいけないし、実際にそのための準備も進めています。

インタビュー風景

そして、長期的には「Aug Lab」を通じてコミュニティを育てることも目標です。そのためには、引き続きパートナーを拡大しなければいけないですし、成果も出さなければいけない。

「Aug Labに行けば、何か面白そうなことができそう」

そんな風に思ってもらえるように、たくさんの人に知ってもらえるための成果、それを維持し続けるための基盤を作る必要があると感じています。やることは山ほどありますけどね。