パナソニックが「Augmentation」に取り組む理由

(「Aug Lab」特別対談・前編)
パナソニックが「Augmentation」に取り組む理由 パナソニックが「Augmentation」に取り組む理由

語り手(左):石川善樹氏(医学博士)聞き手(右):安藤健氏「Aug Lab」リーダー (パナソニック株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 課長)

パナソニックでは、これまで培ってきたロボティクス技術を従来の活用法である自動化・高度化だけでなく、新たな取り組み領域として人そのものの能力を高めるための「Augmentation(自己拡張)」にも活用する取組みを始めており、オープンラボ活動(「Aug Lab」)も推進している。二人三脚で「Augmentation」の価値研究を進めている予防医学者でWell-beingの研究者である石川氏と、パナソニックの「Aug Lab」を立ち上げたLabリーダーの安藤との対談の様子を前編・後編に分けて掲載します。前半は、なぜ、今「Augmentation」に取り組む必要があるのか、「Augmentation」を体現している事例などについて触れる。

Q. なぜ今「Augmentation(自己拡張)」に取り組む必要があるのか

安藤:もともとはロボティクス技術の20世紀の主流がAutomation(自動化)であったことに対して、これから新たに必要になる概念が「Augmentation(自己拡張)」だという仮説を置き、石川さんにも構想段階から検討に参画いただきました。改めて伺いますが、なぜ、今、「Augmentation」に取り組む必要があると考えますか?

石川:まず、「これからの人間はどう生きていくのか?」という問題に目を向けたいと思います。テクノロジーが発展し、近年は「AI」などの技術が出てきて、いよいよ本格的に、ビジネスとしても成立する領域に入ってきていると実感しています。AIは、Automationの究極だと感じています。あらゆることが自動で判断される時代に入ってきている今、放っておいても向こうからいろいろとやってくる時代となりました。コンテンツにしても、食品にしても入手するために手を挙げる必要すらありません。そういう状況にハッとしました。「人間って(生きるために)どうするんだっけ?」と。

対談風景

これまでは「負」の解消という視点で自己拡張自体はずっと取り組んできました。今後のビジネスとして「Augmentation」をやる必要性として浮かぶのは、今の社会や個人に明らかなる「負」がないということ。負の解消ではない形で、新しい形のビジネスを展開しないといけないと考えています。

安藤:高度経済成長を経て、だいたいのものが揃って満たされている世の中で、どういう価値やものが世の中で必要とされているのかと考えたときに、私も人が人らしく、幸せに暮らすということに価値があるのではないかと思うようになりました。

Q. 身近で「Augmentation」を体現していると感じる事例はありますか?

石川:最近、拡張されて初めて気づく価値が増えたように思います。例えばテンピュール®の枕はその典型です。テンピュール®の素材自体は、NASAの宇宙開発で、昔からあるものだった。そもそも以前は、枕にあそこまでのハイスペックなものを求めなかったですからね。しかし枕という製品として使ってみると、今までにないすごい体験ができた。
これからのビジネスはそういうことなんじゃないかと考えています。つまり、今まで気づいていなかったところへ領域を拡張したり、領土拡張してビジネスを伸ばす。そんな中、人口は減るし、パナソニックだっていろいろとやり尽くしている状態なわけだから、今度は人間自身が気付いていない領域をどうにかするしかないと思うんです。

安藤:確かに自分も気付いていないところに価値を作るというのは最近の傾向かもしれませんね。プロダクト以外でも事例はありますか?

石川:ある商社がコーポレートスローガンに「Enrich(エンリッチ)」という言葉を採用しています。なぜ商社がこの言葉に着目しているのか、単純に言うと「人口が減るよね」ということなんですね。人口も減るし、寿命ももう伸びきっている。そうなると、あらゆるものごとの質を良くすることしかないわけです。

対談風景

安藤:Enrichと聞くとどちらかというと東洋寄りの視点という気がしますが、これらは場所に依存するような概念ではなく、人々が昔から大事にしてきた概念なのではないかとも思いますがいかがでしょうか?

石川:西洋は部分を、東洋は全体を見るという違いがあります。その人が持っている素材を良くしていくというのが東洋的な考え方です。美容医療でもほうれい線を消すときは、西洋だとほうれい線に注射する。日本の美容医療は、頭から注射をしていってちょっとずつリフトアップしていく。地域や文化によってアプローチの違いが良く出ている例ですよね。

安藤:なるほど、ひとくちにEnrichと言っても、地域や文化によって受け止め方や向き合い方が変わってくるんですね。「Aug Lab」でも、「何気ない日常をもっと豊かに」をテーマに研究を推進していますが、広い視点で日常を捉え、多くの方のWell-beingの向上に貢献できる価値を見出す必要がありますね。
まだまだ伺いたいテーマがあるので、後半でお伺いさせてください。

 後編に続く

*テンピュールは、テンピュール・シーリー・ジャパン 有限会社の登録商標です。