パナソニックが社会実装しなければ意味がない。

(「Aug Lab」特別対談・後編)
パナソニックが社会実装しなければ意味がない。 パナソニックが社会実装しなければ意味がない。

語り手(左):石川善樹氏(医学博士)聞き手(右):安藤健氏「Aug Lab」リーダー (パナソニック株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 課長)

二人三脚で「Augmentation(自己拡張)」の研究を進めている予防医学者でWell-beingの研究者である石川氏と、パナソニックのAug Labを立ち上げたLabリーダーの安藤との対談の様子を前編・後編に分けて掲載します。
前編では、今「Augmentation」に取り組む必要性や「Augmentation」を体現している事例について石川氏に語ってもらいました。後編ではキーワードとして「Well-being」やパナソニックの強み、目指すものについてさらに話を展開します。

Q. なぜ最近「Well-being」を良く耳にするのか?

安藤:例えば、「ENRICH YOUR LIFE」というフレーズに出てくる「ライフ」という言葉には、日本語では「命」みたいなレベルから、「生活」「人生」「生き方」という意味があります。「LIFE」をどの意味まで捉えて、モノ・コトを考えるのかということを考える必要があります。そんなときに出てくる言葉が「Well-being」です。「Well-being」の専門家として、今では毎日耳にするこの言葉をどう捉えているのかお聞かせください。

石川:「Augmentation」の観点で言うと、「Enlarge(エンラージ)」と「Enrich(エンリッチ)」があります。Enlargeは人間の能力を伸ばすこと、つまりその観点からは、平均寿命拡大などを指します。国際社会的にも今、持続可能な開発目標「SDGs」などが注目されていますが、SDGsの目標が達成された2030年以降どうするかという問題が出てきます。

対談風景

そのど真ん中のテーマが「Well-being」だと予想しています。意味としては「Enrich(エンリッチ)」に近いと思うんです。2023年に日本開催が予定されているG7。そこで中心テーマになるのが「Well-being」になると考えています。
ちなみに2025年の大阪万博のテーマは「命輝く未来社会のデザイン」なんです。そんな流れで、2027、8年くらいからSDGsの次、何をするの?ってなりますよね。100年、200年という時間軸もそうだし、働いている人の「Well-being」をどうするのか。途上国でも考え始めているという時代に変わっていると思います。

安藤:そうですね。確かに色々なシーンでWell-beingを考えるようになってきていますね。例えば、今まで工場の指標は、生産性や効率性を上げることが評価の基準になっていましたが、これからはそれだけではなく「働いている人が楽しく働いていますか?」「明日、会社に行きたいと思えていますか?」ということ基準として入ってくる世の中になっていくでしょう。

対談風景

工場の中にちょっとしたコーヒースペースを作ったりして、働いている人たちのコミュニケーション機会を生み出したり。そういうことはBtoCだけでなく、あらゆる産業が考えなければいけない時代に入ってきたのかなと思っています。

石川:こういった状況はすでにいろいろな業界で起きています。例えば、ファッション業界においても、例えば原材料の調達プロセスや労働環境なども含め、バリューチェーン全体を通して、サスティナブルか、そこに関わる人たちが幸せかということが考えられ始めていて、まさにいろんな業界でWell-beingが問われ始めていますね。

Q. パナソニックx「Well-being」?

安藤:話は変わりますが、何かパナソニックの取り組みでWell-beingを体現していると感じるものはありますか?

石川:最近のパナソニックが作ったものでいうと、空港の顔認証ゲート※1ですね。体験してみて、なぜ今までこんなに空港での入出国手続きの在り方が変わらなかったのかと強く思った。人の認証だけじゃなくて、人の体験全体を通して、認証するという行為がデザインされている。あれが本当のWell-beingだと感じています。

Q. テクノロジーによる「Well-being」の向上は可能か?

石川:可能だと思いたいです。これやるために一番のベースになるのが測定です。「Well-being」をどれだけ、測定できるか。測定できれば必ず制御できます。
CO2もそうであったように、測定ができると制御が可能になります。「Aug Lab」で最初にやる必要があるのは「測定」だと考えています。

Q. 「Augmentation」でのパナソニックの強みは?

石川:いい意味でも悪い意味でもいろんなことをやっている人がいる、多様性に満ち溢れているのは、パナソニックの強みだと思います。横パナ、縦パナ。クロスイノベーション。少し前までは特化して突き抜けることが競争に有利な時代でした。しかし今はテクノロジーだけではダメだと実感しています。

安藤:解決すべき課題が明確で、スペック勝負のときには特化型が強さを発揮します。しかし、考えの基準となるものがモノから人に移ったときには、多様性のある思考ができないと、本来的な解決はできません。

石川:パナソニックは、人々の暮らしをよくするところからはじまっています。つまり、パナソニックは延々と人に興味があって、BtoC事業を持ち続けているわけです。それは大きな強みだと思います。じゃなかったら、「Aug Lab」なんてやらないと思うんです。ビジネスだけを考えたらAutomationだけで十分なわけですから。

安藤:そのような会社であるパナソニックが果たすべき役割はなんでしょうか。

石川:実装ですね。社会実装していくこと。プロトタイプまではすぐ作れるかもしれないが、実装していくことや大きな構想を描くには更なるハードルがあります。「まず自分たちで作ろう」とゼロイチの挑戦で終わらせず、1を10にするという社会実装までやり抜く必要があるのではないでしょうか。

安藤:そうしないと、新しいことって世の中には生まれてこないですよね。

石川:「Enrich the world」をほんとに目指して、原理チェンジしたのが、イーロン・マスク氏です。テスラ社はガソリンから、電気へと大胆な変化を実現しようとしています。車業界ではそういうことが起きているのに、例えば住宅業界ではZEH住宅の普及は当初の計画よりも進んでいません。違いは、どこにあるのか。それは、「インダストリーの構造を変える」という気概、大きな構想、社会実装がないこと。産業構造を変えようと思ったら、気合もいるし、様々なプレーヤーと協力しなければなりません。でも、パナソニックはそれができるポジションにいるのだから、やるべきだと思います。

Q. 「Aug Lab」に期待することは?

石川:よく動き、実装するまで諦めないという気合を期待したいです。「Aug Lab」からは、0→1(ゼロイチ)はいっぱい生まれると思いますが、その先には産業構造を変えるという視点が必要になります。単なる一商品の話だけでは、Apple社のようなことは起こらない。Apple社は、産業構造を変えたわけですから。

安藤:まさしくそうですよね。このラボがプロトタイプで終わることはありません。社会実装のラボを目指して立ち上げたからには、生活や暮らしを変えるところまでやり続けることが大事だと思っています。

石川:初期のiPhoneのように、何かおもしろいものを作って、産業構造を変えるためにはどうしたらいいのかを考える。パナソニックにも何かできるはずです。社会実装と共に、大きな産業構造の変化も含め、「Aug Lab」には期待しています。

※1:パナソニックの顔認証ゲート(https://channel.panasonic.com/jp/contents/22860/)