京都の文化と出会ってTOUが問いかける新しい価値

「Aug Lab」京セラ美術館展示記念座談会
京都の文化と出会ってTOUが問いかける新しい価値 京都の文化と出会ってTOUが問いかける新しい価値

語り手(左):出村光世氏(Konel Inc. プロデューサー / ファウンダー)、(中央):本田恵理子氏(マインドクリエイターズ・ジャパン株式会社 代表取締役/Ziba Design)、聞き手(左)安藤健「Aug Lab」リーダー(パナソニック株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室)

パナソニックでは、新たな取り組み領域として人そのものの能力を高めるための「Augmentation(自己拡張)」にも活用する取組みを始めている。これまで培ってきたロボティクス技術を従来の活用法である自動化・高度化だけを目的とせず、社内・社外関係なく一緒に取り組むことで「新しい何か」を生み出すことを目指している。この度、「Aug Lab」共同研究パートナーのKonelと共同開発している「ゆらぎかべ-TOU」(以下、TOU)が2020年10月31から12月6日まで京都市京セラ美術館にて開催の「KYOTO STEAM 2020 国際アートコンペティション スタートアップ展」で一般初公開となった。初公開を記念して、「Aug Lab」とKonelの出村光世氏、マインドクリエイターズ・ジャパン株式会社の本田恵理子氏との対談が実現。本田氏がTOUに興味を持った経緯や、京都の地でTOUを見たときに感じたこと、出村氏には初公開が京都になった感想や、今回の展示での新たな気づきについて語ってもらった。

TOUから受けた印象は「問い」のデザイン

安藤:今回の企画展の概要を教えてください。

本田:アートとサイエンス・テクノロジーの融合を通じ、新たな価値の想像を目指している企業の作品を展覧する「KYOTO STEAM 2020 国際アートコンペティション スタートアップ展」。京都市民が蓄えてきた1200年の歴史、文化、伝統を何らかの形でマッチするような機能を創ることをコンセプトにしています。本来、3月に行われるはずでしたがコロナの影響で延期となり、今回の秋開催となりました。

安藤:どのような経緯で「Aug Lab」のTOUを候補に選ばれたのでしょうか?

本田:せっかくなので新たな試みをと考え、実証実験を行うラボが溢れる中で、ラボが集まって共同で何かひとつの空間を創るのはどうかと考えました。

インタビュー風景

例えるなら、シリコンバレーのようなイメージです。共同実証実験を行うガレージという形をみんなでやってみたら、何が作れるのか、何を感じられるのかと。TOUに興味を持ち、見たときには何を考えてこの壁を作ったのか、深く知りたいという気持ちになりました。「Aug Lab」にもKYOTO STEAMがチャレンジしていることに通じるとも感じました。

安藤:TOUをご覧になった印象はいかがでしたか?

本田:止まっているときは岩みたいなのに、電源が入るとストレスがない壁という動きをしているのがすごく不思議でした。京都はゆっくりしようよという文化があります。その文化との相性の良さも感じました。デザインの世界は問いがあってソリューションに繋がるもの。風の動きで揺らぐ壁を制作していること自体が大きな問いだと感じました。問いかけが多いことも「アーティスティック」だと感じました。

安藤:開発してきた立場として、TOUがこの企画展に選ばれた感想を聞かせてください。

出村:まず、TOUの最初のお披露目が京都になったことを光栄に感じました。この作品はアート作品を作ろうとして始まったものではなく、「ランダム家電」という言葉を使いながら出来上がったものが、結果、問いかけにもなったことがうれしい。

インタビュー風景

これが家にあったら、未来の空間にあったらどうなるのかを想像してもらうために、あえて芸術作品、美術品ではないランダム家電を意識しました。それが美術館の中でそり立っている。この状況そのものがチャレンジングだし、チョイスをした運営のみなさんもかっこいいですね。(笑)

安藤:今回の企画展への参加を通じて感じたものはありますか?

出村:私たちは課題に解決を見出すことを得意としているチームですが、今回の展示を通じて、我々も問いを作る側に立っていいと感じましたし、そして企業もアートを作っていいと証明してもらった気がします。美大を出たらその先にどんな選択肢があるのか?と考えている学生にとっても、パナソニックのような企業への道もあるし、コネルのようなスペシャリスト集団に進む道もあると選択肢を示せた気がします。

インタビュー風景

本田:アートの世界でいうと、海外ではかつてステータスとされたMBA(経営学修士)を持つことよりも、今はMFA(美術学修士)のほうが人気だったりします。世の中が変わってきて、まさにシフトチェンジしている。揺り戻しが起きている状況で、京都では壁が揺れている(笑)。そんな状況はおもしろいですよね。

コロナによって感じたぼーっとすることの価値

安藤:コロナによる価値観の変化が作品選定に影響はあったのでしょうか?

本田:コンシューマー・インサイトや価値観がどんどん変わる中で、今年はとてつもないスピードを感じました。まさに、コロナで風が吹いたという印象です。いつか今年を振り返ったときに、一旦立ち止まらなければいけなかったんだと思います。次々と拡張するのもありだけど、拡張の前に、自分の体も人生もひとつだということ。人間は老いて死んでゆくことを近代以降、きちんと受け止められていなかった。死と生が隣り合わせというのが実は一番しっくり来るし、科学的でもあると感じています。人間ってちっぽけなものだとわかったら、ボーッとするしかないですよね。(笑) そんなほっとできる世界観もTOUに合った気がします。

インタビュー風景

安藤:今後の作品へ何か得たものはありますか?

出村:美術館という場所に展示されたことで、空間デザインの面白さを改めて感じました。照らす角度を変えると、さまざまな問いが生まれ、広がっていきますよね。TOUについても、小型化すべきなのか、軽量化すべきなのか、それともサイズを大きくすると価値が出るのか、この機会に来場者のご意見をいただき、発展の仕方を考えたいですね。

安藤:最後に、「Aug Lab」が取り組むべきテーマについて伺って良いでしょうか?

本田:パナソニックさんで言えば消費者にあたる、一般の人たちが家庭の中にほしいと思うものに転化していくとすごくおもしろいと思います。みんなにとって身近になる、手にとって持って帰れるものになったらいいにと思います。すごくゆるいものがいいですね。ストレスが緩むもの、そんな作品が作れたら素敵だと思います。

安藤:本日はありがとうございました。

KYOTO STEAM 2020 国際アートコンペティション スタートアップ展
2020年10月31日(土)~12月6日(日)10:00~18:00
京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
※月曜日休館。月曜日が祝日の場合は開館。
※最新の開館情報は京都市京セラ美術館のホームページでご確認ください。
※展覧会情報はこちら。
https://kyoto-steam.com/program/event01/