便利さだけではない内面的な充足につながる「環世界」へのインタフェースを

(「Aug Lab」共同研究パートナーインタビュー:株式会社ロフトワーク)
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便利さだけではない内面的な充足につながる「環世界」へのインタフェースを 便利さだけではない内面的な充足につながる「環世界」へのインタフェースを

(左)株式会社ロフトワーク MTRLプロデューサー 小原和也氏、(右)株式会社ロフトワーク  MTRLディレクター 柳原一也氏

「Aug Lab」の共創パートナーとして、共に「Augmentation」の価値探求をしていくこととなったMTRL(マテリアル)[運営:株式会社ロフトワーク]。MTRLは、素材メーカーとクリエイターの共創を支援し素材基軸のイノベーションを生み出すグローバルプラットフォームとして、クリエイティブエージェンシー株式会社ロフトワーク内に誕生した組織だ。例えば、木材・金属・布などの一般的な素材から伝統工芸素材、最先端のテクノロジーが搭載されたセンサーやモジュールまで様々なイノベーションの源となる可能性を秘めた"マテリアル”を扱いクリエイターの好奇心を刺激し、そこから生まれるイノベーションをサポートしている。「Aug Lab」への応募に至った経緯やMTRLが実現したい価値、パナソニックとの“共創”で期待することについて、株式会社ロフトワークの小原氏、柳原氏に話を伺った。

「Aug Lab」の領域に「人の感情の拡張」が入っていることに興味

「MTRLは、クリエイターが集まり何か新しいテーマで物作りをします。HAPTIC DESIGN PROJECT などのプロジェクトを通して、我々なりに身体拡張や自己拡張のテーマには触れてきました」と説明する小原氏。「それがワークショップ、イベント、プロジェクトに展開していく場合もある。そういったものが多発する中で、可能性を探りながら検証し、素材や技術の新しい可能性を検討していくことをMTRLは目指している」という。

「「Aug Lab」は人の感情が領域に入っているところや、共創を前提に活動している点が興味深いと思い応募を考えました。ひと昔前なら、大企業があまり力を入れている領域ではなかったことに、パナソニックのような企業と一緒に取り組めることはとても興味深いです」と小原氏は語る。

インタビュー風景

「Aug Lab」で開発を進めるコンセプトについては、柳原氏が社外のエンジニアやデザイナーと結成し活動を行っているインタラクションデザインユニット「GADARA」での活動を活かしたいと話す。自然物をインタフェースにしたらどうなるかという問いのもと「HACK THE NATURAL OBJECTS」というプロジェクトを実施。石や流木などの自然物にセンサー、バッテリー、マイコン、Wi-Fi モジュールを組み込み、ワイヤレスでスピーカーの音量調節やライトの光量調整ができるインタフェースを開発した。「河原で見つけた石をなんとなく気に入って持ち帰ることってあるよねという話が出たときに、その石は他の人から見たら何の変哲もないただの石だけど、その人にとっては特別な存在であって、その人の生活をより豊かにするトリガーの一部にすることができるのではないかという発想から実装した」という。

インタビュー風景

HACK THE NATURAL OBJECTS (https://gadara.io/work01.html)

「環世界インタフェース」というアプローチ

小原氏は「柳原の活動をきっかけに議論する中で、私たちが実現したいコンセプトとして思い浮かんだのが「環世界」(※注釈)だったと語る。「世界にはいろいろな生き物がいて、それぞれの視点で世界を捉えています。パナソニックの製品も含め多くの工業製品は、人間にフィットする、安全で使いやすい人間中心のものづくりが行われています。人間中心設計が実現した価値は計り知れませんが、さらなる内面的な充足につながる拡張を目指すなら、文化や感情、生活様式もひとりひとり違っているのですから、もっと自由度があっていいんじゃないかと。もしくは、異なる生き物の能力や感性を観察して応用するなど、もっとひとりひとりにとっての世界が現れてくるような「環世界的な」アプローチができるんじゃないか」という考えに至ったという。

インタビュー風景

柳原氏は「ユーザーが好きなようにアレンジして、思い入れのあるものをインタフェースにすることは可能だろうか。今いる環境の質を変えるトリガーがあれば、ひとつのインタフェースに機能が統合されるスマートフォン的なアプローチとは異なるインタフェースにできるのでは」と考えたという。「足し算的な人間拡張ではなく、人の感性的な側面が投影できるインタフェースと、それが実装された空間や製品を作ることができたら、便利さだけではない内面的な充足に繋がる拡張を生み出せるのではないか」

「例えば映画のワンシーンで描かれるような、本棚にある1冊の本がスイッチになっていて、それを押すと隠し扉が開くというシーンを想像できる人は多いと思います。その事実を知らない人から見たら1冊の本だけど、使う本人にとってはスイッチになっている。広く捉えればこの状況はそのユーザー独自の環世界が実現されていると捉えることができます。こういう差異はおもしろいと思うし、そのようなそれぞれにとっての感性的な価値を広く捉えて実装するプロジェクトにしていきたい」という。

インタビュー風景

「Aug Lab」との共創では「人々の生活を支えるものづくりに携わってきたパナソニックの皆さんとのワークショップや意見交換が楽しみ」と語る。「ユーザーの生活やインタフェースの機能的価値を重視して開発に従事してきた方々と、それが持つ意味的な価値から議論し直せたら、私たち自身にも新しい発見があると思うし、それが「Aug Lab」の新しい発見にもつながればいい」と期待を寄せた。

※環世界とは
ドイツの生物学者・哲学者であるユクスキュル(1864年~1944年)により提唱された考え方。人間は人間が持つ感覚器を通して世界を捉えているように、すべての動物はそれぞれに特有の知覚世界をもって生きており、その主体として行動しているという考え。

【会社概要】
株式会社ロフトワーク(Loftwork Inc.)
2000年創業のクリエイティブエージェンシー。オープンコラボレーションを通じて事業や組織、人が成長する “生態系” を構築するクリエイティブカンパニー。
https://loftwork.com/jp/

MTRL (マテリアル)
株式会社ロフトワークが運営する、素材メーカーとクリエイターの共創を支援し、素材基軸のイノベーションを生み出す、グローバルプラットフォーム。
https://mtrl.com/