「Aug Lab」の1年の成果とこれからの“New Normal”にむけて

「Aug Lab」単独インタビュー
「Aug Lab」の1年の成果とこれからの“New Normal”にむけて 「Aug Lab」の1年の成果とこれからの“New Normal”にむけて

パナソニック株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 室長 松本敏宏

パナソニックの「Augmentation」(自己拡張)の領域における価値探求プロジェクトの「Aug Lab」の活動が2019年4月の発足から1年が経過した。今回はAug Labの主管部門であるロボティクス推進室の室長である松本敏宏に、この1年の振り返りと成果、さらに今後の活動の目標について聞いた。

―― 発足から1年。振り返りと成果について教えてください。

松本:なぜ「Aug Lab」を立ち上げたのかを、改めて振り返ると、2018年のパナソニックの100周年イベントで発表した「これからのロボティクス事業」の内容を考える議論の中でそのきっかけが生まれました。これまでは人の生活や仕事を便利にさせる道具だったロボットが、少子高齢化になると徐々にパートナーとして人間のサポートを担う立場に変化し、今後「人生100年時代」を迎えるにあたって、これまで「ラクラク」を実現するために追求してきたロボティクス技術を、人生に喜びを与え、個人が「ワクワク」する価値を提供する必要があるのではないかと。つまり、「ラクラク」と「ワクワク」の両方を実現するのがロボティクス技術のありかたを変えていくひとつの方向性になると考えました。それがAugmentationであり、「Aug Lab」の原点でした。

パナソニックの100周年イベント

Augmentationをどのようにサイエンスし、テクノロジーに応用していく活動をどうするか、という問いを立て、議論が盛り上がったのを覚えています。そこで出てきたのが「Enlarge(エンラージ)」と「Enrich(エンリッチ)」の2つの領域を追求しなければいけないという話でした。Enlargeは、主に人間の身体能力の拡張のアプローチ、Enrichは人の感性の拡張や刺激を与えるアプローチ。特にEnrichは新領域であり、その新領域の探索や追求のために社内外の有識者のハブとなる、オープンイノベーションの場として立ち上げたのが「Aug Lab」です。今、振り返ると、あの議論はすごく楽しかったですね。パナソニックの経営のデザインポリシーへの組込まで持っていこう、これからの経営の強みを創っていこうという熱い想い、野望がそこで生まれたのを覚えています。

「Aug Lab」1年目の活動はプロトタイプ5件創出をKPIに設定していましたが、達成できたと思います。リソースが少ない中で、社会科学的なアプローチ、自然科学的なアプローチというさまざまな角度で、より広がった活動にできました。

―― Augmentationに取り組む中で見えてきたものはありますか?

松本:「Aug Lab」の取り組みに対して、社内だけでなく社外からも賛同者が多いことには驚きがありました。方向性は間違っていないと確信しました。長い間、シナジーで何かを生み出すことが課題だったのですが、ワークショップや社外公募などを通じて異なる価値観の掛け合わせで生まれる共創による効果を感じました。ロボットを開発しているだけでは出会うことのない仲間ができました。メンバーの人材育成にも大きく貢献したと実感しています。私の個人の変化としては、哲学書を読むようになったりと興味を持てる範囲が広がりました。「人を理解する」というテーマは、向き合ってみると改めてその難しさに気付かされましたね。

「Aug Lab」での風景

―― 2020年に入り、世界は大きな変化を迎えました。そのような環境の中で、「Aug Lab」の2年目はどのような活動を予定していますか?

松本:新型コロナウイルスの影響で人と人との物理的距離が離れました。在宅勤務の中で改めて感じたのは、人は集団で生活することで何かしらの幸せを感じるということです。単独では幸せになれない動物なのではと感じました。だからこそ、心の距離を縮めるアイデアをどんどん提案したいという思いが強くなりました。例えば、コロナの影響で雑談が減りました。雑談から得られる発想、改善、生産性の向上に繋がるものは多々あります。他にも失われたものがたくさんあるのではないでしょうか?これからはコロナ後の“New Normal”として必要になる人と人とのつながりを感じられるものを増やしていきたいと思っています。

―― 「Aug Lab」の活動を通じて実現したい世界観があれば教えてください。

松本:ロボティクス技術は今後急速に発展していきます。ロボットは工場のような囲まれた空間から解放されて人々の生活空間に放たれていく。そこで必要なことはロボットがQoL(Quality of Life)を理解して動くことだと考えています。例えば、掃除機。ただ、人間の代わりに掃除をするのではなく、人間の気持ちを感じて動くのが理想です。「リビングは自分でやるから、それ以外を掃除してほしい」という人間の気持ちを汲み取って動く。人の気持ちやモチベーションに合わせてロボットが動く世界観を創っていきたいです。個人的には、トランステック市場も狙っていきたいですね。

―― 最終的に「Aug Lab」が目指すところとは?

松本:立ち上げ時の熱い議論で出てきた、パナソニックの経営の真ん中に置いてもらえるように、強みを作ることは目指したいです。現在、パナソニックが発信しているビジョンは「くらしをアップデートする」です。「Aug Lab」の活動はこのビジョンととても親和性が高いと感じています。
これまで培ってきたロボティクス技術の拡張により人や生活をより豊かにする。
すなわち、テクノロジーによる人や社会のWell-beingに貢献したいと思います。