「Aug Lab」の共創パートナーとして、共に「Augmentation」の価値探求をしていくこととなった慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KEIO University Graduate School of Media Design;以下KMD)を代表して南澤孝太教授にお話を伺った。現在、大企業がオープンイノベーション型の「新しい価値を生み出すこと」を目指している中で、パナソニックには「特におもしろい取り組みをしている」と感じていると語る。南澤教授が取り組むプロジェクト「Embodied Media Project」(※1)や「Aug Lab」共同研究パートナーへの応募のきっかけ、「Aug Lab」の活動を通じて検証したい価値、さらに、パナソニックに期待することについて伺った。
使う人が求める価値を提供することの重要性
KMDにおけるプロジェクトの活動ポリシーは、デザイン、テクノロジー、ビジネス、社会制度設計の力を組み合わせて新しい概念を生み出すだけでなく、それを形にして実際に社会に導入するところまでを責任を持って作っていくことだという。特に「Embodied Media Project」(「身体性メディア」プロジェクト)では、人間の感覚に着目し、人間の身体で感じるさまざまな感覚を、VRやARなどの新しいテクノロジーを通して伝え、高め合う。全くゼロから未知の感覚を作り出すことで、新しい体験をデザインし、社会の様々なフィールドで応用展開している。
具体的なこれまでの取り組み事例としては、「シナスタジア・スーツ」(※2)が挙げられる。VRビデオゲーム作品「Rez Infinite」(※3)の共感覚的なコンセプトを体現するために製作され、体内で“音の触感”が駆け巡る感覚が味わえるものだ。「いわば、コンセプトエクスペリエンスです。体全体がゲーム空間に没入した体験を作り、それをもって未来像を探っていくというプロジェクトです」と説明する。他には、地方で行われているバスケットボールの試合の感覚を東京のファンに届ける「ライブビューイングならぬ、ライブフィーリング」では、床の触感や地響きを再現することで、空間全体が試合会場の体育館と一体になる感覚を体験できる。このように「実際に社会のフィールドでアプリケーションの展開も行っています」と教えてくれた。
「アカデミックの研究では、実際に使う人が求めている価値を無視しがち」と話す南澤教授。実際に使う人、価値を作っていく人に引き渡したり、すり合わせをしながら一緒に作っていくことで、プロダクトの開発やサービスの展開をし、自分の発想をユーザーが使うところまで見届けるのが研究だと思っていると強調し、「自分も含めて現実世界と、ネットに繋がった世界と2つの世界を同時に生きている中で、人間の身体や感覚がどう広がっていくのか」という点に一番興味を持っているという。
「Aug Lab」が目指すものとの共通点
「パナソニックのような大企業が、「Aug Lab」を立ち上げたこと自体にとても驚きました」と語る南澤教授。まだ、海のものとも山のものともわからないものを、オープンイノベーションという形で募集をかけたことに衝撃を受けたという。「さらに、人間拡張の中でも、人のメンタリティや感覚の方の拡張を目指している、つまり“Well-being”をやろうとしている人たちがあの大企業の中にいるんだと思うだけで面白いし、非常にワクワクしています」と目を輝かせる。
応募のきっかけは「自身の興味関心にとても近い領域のチャレンジをしようとしている人たちがいる、ぜひ関わってみたい」という気持ちからだった。「正直、私のプロジェクトに興味を持ってくださる方は、それぞれの会社でちょっと変な人という感じです(笑)。すぐにお金には繋がらないけれど、興味をもって一緒にやってくれる、そんな人たちが多いです。でも、今回は企業側からのアプローチ。提案が通ればプロジェクトになる体制が整っていることはとても魅力的です」と熱く語る。
共創プロジェクトとして提案しているのは「これまでやってきたウェアラブルデバイスではなく、あえて“空間と人との関係性を変える”こと」だという。「身の回りにある環境側から自分たちに対して働きかけをすることで、空間、環境、世界の捉え方が変わるのではという大きなコンセプトに基づき、“人に呼応する空間のデザイン”を模索していきます。バイタルや感情の変化に応じて、空間自体が動き、直接人に働きかけるというイメージです。実際の空間において、人と物質的なモノとの関係性は実はあまり変わっていない。でも、ネットやサイバー空間では変わってきています。漠然ではあるけれど、新しいことをやるなら、リアルな空間における人とモノとの関係性に手をつけてもいいかなと考えています」
「Aug Lab」とは目指しているものが近いという。「Enchant(物事を楽しくする)、Empower(拡張する)、Empathize(共感する)、この3つが私たちのキーワードです。「Aug Lab」のEnlarge(身体拡張)とEnrich(感覚拡張)とほぼ一緒の考えだということに、「驚くと同時に、一緒にやるしかないと思いました」と振り返る。「アカデミックとインダストリー。立場は違うけれど描いている未来感が同じであれば、あとはゴールに向かって進んでいくだけ。スタート時点で考えが共有できているというのは大きな魅力」だという。
共創にあたってパナソニックに期待することは、実際の社会に繋ぐためのフィールドとの連携であるとし、「せっかく一緒にやるなら、現在パナソニックが手がけている生活のインフラのさらにワンランク上のインフラになるようなものを手がけたい」と語る南澤氏。「ここ5年くらいで、オープンイノベーションをしていかないと大企業でさえも未来はないという考えに変わってきている中で、「Aug Lab」の立ち上げも、タイミングはすごくいいですし、一緒にやっていくにあたって期待しかない!と心から思っています」と強調した。
*今後の慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科・南澤孝太教授との共同研究の進捗は、「Aug Lab」ウェブサイトでも紹介をしてまいります。
※1:「Embodied Media Project」概要について:
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科「身体性メディア」プロジェクトは、人々が自身の身体を通して得る様々な経験を、記録・共有・拡張・創造する未来のメディアテクノロジを創ります。見る、聞く、触れる。人と人、人とモノとのインタラクションにおける身体性を理解し操ることで、楽しさ、驚き、心地よさにつながる新たな身体的経験を生み出します。
詳細URL:http://embodiedmedia.org/
※2:http://rezinfinite.com/ja/synesthesia-suit/
※3:水口哲也氏が率いるEnhance社が開発したゲームソフト(http://rezinfinite.com/ja/)
【団体概要】
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD: Keio University Graduate School of Media Design)
KMDはグローバルに活躍できるクリエイティブリーダーである「メディア・イノベータ」を育成するとともに、創造社会を牽引するための様々な活動を行っています。
国際社会の一員として先端的な活動を行うため、英語と日本語を公用語とし、MAKE、DEPLOY、IMPACTを一連の流れとして捉える「イノベーション・パイプライン」と呼ばれる教育モデルを実践しています。
KMDにおける研究活動は「リアルプロジェクト」と呼ばれ,外部組織との連携のもと社会的インパクトを生み出す最先端の研究活動を実践しています。
https://www.kmd.keio.ac.jp/ja/