Part1 プロジェクトのはじまり
「これ、むずかしくないっすか?」
村上: 村上です。今回の魔改造マシンに搭載したシリンダの構想から設計・製作をメインで担当していました。
足立: 足立です。自分は、部品の加工やチームメンバーのサポートを担当していました。
小林: 小林です。このプロジェクトには、若手の技術者たちが主体となって、ものづくりをする経験を積んでほしいという思いが込められていました。なので、私はものづくりを進める上でもろもろ発生する困りごと解消のサポートを行っていました。
村上: 二人と一緒に仕事をするのは、この魔改造プロジェクトが初めてです。自分は構想と設計のメイン担当ではありますが、実験など一人だけではできないこともあります。加工では足立さんの手を借り、条件を変えてシリンダ実験をすることで部品の選定などでは小林さんに助けてもらいました。
村上:
僕らが今回目指したのは、2〜3kgあるモンスター(アヒルのおもちゃ)を5m先まで飛ばすシリンダの開発です。このミッションを聞いたときは正直、『むずかしくない?完成するの?』と思っていました。
というのも、過去の事例でモンスターを遠くまで飛ばすものがあり、そのときにはジェット噴射で10mくらいの結果だったんです。あとはジャンプ。その事例での結果は4mくらいでした。ジェット噴射以外で5m以上の結果をみたことがなかったんです。
足立: 最初はシリンダの原理をどれにするか決めることから始まりました。村上さんが考えていた圧縮空気圧を利用したエアシリンダのほかに、バネや磁石、あとは爆発を使ったものが挙がっていたと思います。各自が思いついたアイデアを持ち寄って、試して、結果を検証していましたね。
小林:
4つのなかで一番成果がよかったのがエアシリンダでした。自分はバネを使ったシリンダを検証していましたが、実は結構最初のときから『エアシリンダになるんじゃないか』と思っていました。
バネって結構重さがあって、そこにモンスターも乗るからそこまでの距離は出ないだろうと。でも技術者として何も検証せずに判断するのはイヤですから、一回検証すれば納得できると思って挑戦したら、案の定エアシリンダが一番いい結果を出しましたね(笑)。
村上: でも、そのときに使っていた市販のエアシリンダは、目標の5mには全然届いていませんでした。モンスターの打ち上がり方も、それっぽくはなるけど理想にはほど遠い。『これはもう自分たちで自作するほうがいいんじゃないか』と思いました。
Part2 自作への決断
大学時代に見た光景からヒントを得る
村上: シリンダをイチからつくるのは初めての経験でした。でも、できると思いました。というのも大学のときにロボコンで大会に出た時に、別のチームが自作したシリンダで参戦するのを見たことがあったんです。『自分たちに都合のいいシリンダをつくる手もあるんだな』と思いました。まさに、今回こそ、都合のいいシリンダが必要でした。しかも周りには頼もしい技術者がいます。このチームなら絶対につくれると思って自作に舵を切ることにしました。
足立: そこから村上さんが部材を調達して、設計して、第一号の試作品を完成させました。形にしたものを実験する段階で、自分も加わって、会議室で作業しましたね。
村上: 僕は知見があるから、シリンダは自作できると考えていました。でも、他のメンバーはそうした光景を見たことすらないから、不安だったと思います。だから自分でつくったものを見せて、実験して、モンスターが飛ぶ光景を見せることが、次のステップに進むために必要だと思って準備していましたね。だから、実験でちゃんとモンスターが飛んだときは『よし!よし!』って感じでした。
小林: 僕は実際に飛んでいるのを見て、『これはもうエアシリンダ一択だな』と思いました。そこからまた検証したときに、モンスターが勢いよく飛んで、天井にぶつかったのを見て、自作でもいけるぞと思いましたね。その検証にはシリンダ開発以外のメンバーも参加していて、みんな『飛んだ!飛んだ!』と言っていたのを覚えています。
Part3 チームワーク
次から次へと問題発生
村上: それでも目標の5mにはまだ遠い状態でした。次に考えたのが、いかにエネルギーのロスを抑えながら、モンスターを打ち上げられるかです。ほかの装置の重さやパワーを考えながら、具体的にパターンをつくってシミュレーションすることを繰り返していきました。
小林: このころにはバネの路線がなくなって、私の仕事もなくなってましたから(笑)。村上くんの作ったシリンダを計測して性能を上げていくことに立ち会うことが増えていきました。
村上: 小林さんとの議論によって、試作したエアシリンダにはモンスターを跳躍させる瞬発力が不足していることが課題だとわかってきました。しかもモンスターを飛ばす装置はシリンダ以外のものも組み合わさっているので、シリンダの上に乗るものの重量がどんどん大きくなっていました。
小林: 最終的に試作品を8パターンくらいつくって、何十回、とエアシリンダを飛ばしていました。そうやって計測を繰り返していくなかで、ようやくエアシリンダの本数や圧力など、最適な解が見えて、いよいよ本番仕様に仕上げる段階になっていきましたね。
Part4 最後の追い込み
「これなら、いけそうや」
村上: 今回の競技は体操の『ゆか』がテーマになっているので、ただ飛距離を求めればいい、というものではないのが難題でした。飛ばしたモンスターを、今度は同じ姿勢で着地させないといけない。自分たちがつくったシリンダは勢いよく飛ばすことに特化しすぎていたんです。モンスターから突き出たシリンダ、つまりは足を、どう収めて綺麗に着地させるかが、本番前まで大きな壁となっていました。
小林: ここで再びバネの出番が出てきました。エアで飛ばして、バネで戻す。そうすれば飛ばすための出力は最大限活かせる、という理論です。
村上: 小林さんが出してくれたこのアイデアをもとに自分がプロトタイプをつくって具体化して、また検証をしていきました。で、車輪がついたモンスターにシリンダを搭載して、会議室内で実験するタイミングがあったんですね。このときにマシンがコースを走って、シリンダが動作して、ポーンと飛んで、狙ったフィールドに着地するという、きれいな流れができたんです。それを見て、いけるなと。本番に向けて一番手応えを感じた瞬間でした。
Part5 モンスターからの学び
ここにいる人は、みんな根っからの技術者
小林: 結果がわかっている今だからこそ、『あぁ、あの部分の検証をもっとしておけばよかった』とか、いろいろ思うところはあります。でも、それ以上に普段の仕事でないことで、こんなに熱くなれたこととか、みんなと一緒に一つのものをつくれた面白さのほうが、自分の中に深く残っていますね。
足立: 僕は正直、半分以上がちんぷんかんぷんでした。みんが持っている技術とか専門性に圧倒されていたので、村上さんが毎回、具体的な指示を出してくれたことがありがたかったです。そうやって手を進めていくうちに、壮大なテーマから構造が導かれて、形ができるというのを経験できたのは、難しくて大変だけど、本当に面白いことなんだと学びました。
村上: ロボコンでの経験が役立ったのは嬉しいと思いつつ、小林さんから感じる、技術者として積んできた経験の深さに尊敬というか、ただただすごいなと思いました。小林さんとの議論でもらうフィードバックが毎回鋭いんです。『それは結果じゃなくて感想だ』とか『軸が違う問題が発生してるぞ』とか、課題を整理しながら次に必要な作業を見つけている。それって常に同じスタンスで取り組み続けているからこそ、できることなんだろうなと実感しました。
小林:
アイデアを考えて、それを具体化するのは大事ですが、僕らは技術者ですから、さらに良いものをつくるために、評価をして、次はどうするかまでを考えてやらなくてはいけないです。そのために普段からアイデアを考えたり、図面を描いたり、試作品をつくったり、自分自身でなんでもやってみることは視野を広げるという意味で重要。
ただ今回の主役は若手の技術者です。だからこそ、自分にとっては見守ることを意識したプロジェクトになりました。
村上: 思いついたアイデアを周囲に理解してもらえるように共有する大切さは、今回あらゆるところで感じました。みんな、根っからの技術者で、現場主義だから、こうすればできるというのを、つくって、見せると納得してくれるんです。自分から進んで提案と結果を発信していくことがチームの進捗につながるというのを実感したのが、この魔改造で得た一番のものだと思います。