はんだ材料開発をけん引
30年間、新材料を次々に実用化

はんだ材料開発をけん引 30年間、新材料を次々に実用化
シニアエンジニア
古澤 彰男

パナソニック ホールディングス株式会社 技術部門
マニュファクチャリングイノベーション本部
生産・環境技術研究所

Profile

1989年入社。高密度チップ実装技術開発や狭ピッチ半導体パッケージ実装技術開発、携帯電話用リフロープロセス開発と生産設備の導入立ち上げなどを担当。1994年以降ははんだ材料開発を専門的に担当し、2003年の全社の鉛はんだ全廃に大きな貢献を果たし、市村産業賞功績賞や中尾記念賞を受賞。新規はんだ材料の開発を続け、ゲームチェンジャーともいえる新材料ナノソルダー接合材料の開発に成功。2022年からは水素生成デバイスの開発にも着手。

※所属・内容等は取材当時(2023年7月)のものです。

環境負荷低減の観点から、欧州で2006年までに鉛を含んだはんだ材料の使用禁止が決定すると、パナソニックグループはそれに先駆けて2003年に全社で鉛はんだ全廃を達成しました。その立役者の一人がはんだ材料開発に30年携わってきた古澤さんです。入社以来、環境への貢献を意識して開発を続け、はんだ材料のさらなる進化に力を注ぐかたわら、太陽光で水を分解して水素エネルギーを生み出す「水素生成デバイス」という新たな分野への研究開発にも挑戦しています。古澤さんに技術を高め続ける秘訣などを伺いました。

Chap.1
変化し続ける電子部品

はんだをめぐる技術も進化継続中

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Q 現在担当している業務について教えてください。

はんだ材料の新規開発から製品化までを担当しています。世の中のエレクトロニクス製品に搭載されている回路基板は、頭脳のような働きをしており、なくてはならない存在です。はんだは回路基板を組み立てるために使用され、基板とパーツを電気的に接合します。かつては電子部品も大きく、はんだも直径1.6ミリ程度の糸状で、人がコテを使って手作業で接合できました。今は接合に使用するはんだの粒子も40ミクロンから10ミクロン程度まで小さくなっています。一方で、回路基板の進化は、ピッチを狭くして密度を高める手法から、パーツ同士を縦に重ねて積層する方式へと移り変わってきており、はんだ粒子の小型化も今ぐらいを上限とし、積層させるために実装技術の進化が求められています。

Q 特に力を入れているミッションは?
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近年、はんだ材料には二つの側面で進化が求められています。一つは、基板搭載用のパーツ内部で使用されるはんだの鉛フリー化です。基板にパーツを接合するはんだは、鉛フリーとなって久しいのですが、基板に搭載するパーツ内部で使用されているはんだは、いまだに鉛が含まれているものがあります。鉛フリーの材料に置き換えることで環境負荷を低減し、将来的に策定が予想される規制への対応が事業継続に必要不可欠だと考えていました。

もう一つは、耐熱性能の向上。電力の変換に用いる半導体素子であるパワーデバイスは、現在はシリコン系の材料で作られていることが多いのですが、電力損失の低減や小型化を狙って、窒化ガリウムや炭化ケイ素の使用が増加しています。動作温度はシリコン系であれば150℃ですが、ガリウムやケイ素なら175℃~200℃に上昇します。パワーデバイスの組み立てにもはんだを使いますが、動作温度が175℃以上になると接合信頼性を保てません。従来以上の耐熱性を持たせながら、一方で、より低い融点を持つ材料であれば、低温かつ短時間プロセスでの接合が実現でき、省エネルギー化によるCO2排出量の低減につながります。


こうした二つの側面を解消すべく、産学連携で開発に取り組んできた「パワーデバイス用ナノソルダー接合材料」のサンプル品第一号がついに完成しました。ナノソルダー接合材料は、鉛フリーで従来よりも低い温度での接合を可能にしながら、200℃耐熱を両立した、まさにゲームチェンジャーともいえる新材料です。ナノソルダー接合材料がカーボンニュートラルの実現に向けた大きな一歩になると期待をしています。

Q 新たな分野でも挑戦をスタートしたと伺いました。
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現在力を入れているのが、水素生成デバイス。はんだ材料開発によるCO2排出量の削減は大きな目標ですが、もっと大きな流れでもカーボンニュートラル実現に貢献したいと長年考えてきました。太陽光パネルで発電して、作った電気から水素を生成して活用するというスキームが出来上がりつつありますが、大きな水素工場が必要です。水素工場から各家庭へと水素の配管を日本中に張り巡らせるとしたら、実現に何年かかるか分からない……。だから、各家庭で太陽光から水素を直接生成できるデバイスがあれば、水素というクリーンな資源を広く活用できると考えて、開発に着手しました。 はんだ材料も水素生成デバイスも無機材料を使用するという共通点があります。さらに、長年はんだ開発で研究してきた材料の結晶構造などの知見を大いに活用できるというアドバンテージが、私にはあると感じています。


Chap.2
直観力×想像力×継続力

入社以来続けてきた習慣

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Q ご自身の強みを教えてください。

直観力と想像力を掛け合わせて、継続して力を発揮する能力だと考えています。直観力は事象を観察し、蓄積してきた技術や経験から湧き出るひらめきを生み出す力。何かを開発したい、課題を解決したいと考えていると、論理的な考えではなく、形になっていない頭の中のパーツがひらめきとして不意に結実することがあります。日々その直観を磨くために情報収集は欠かせません。仕事のテーマだけでなく、ニュースで見た新たな発明や大きな事故など、自分とは直接関係がなくても、メカニズムについて仮説を立てて検証を行い、点と点を結んで線にする想像力を養う訓練を欠かしません。

Q 技術者として心掛けてきたことは?
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技術者としての足跡を記録するとともに、事業を守り発展させるために、新たな発見は特許として出願することを心掛けてきました。筆頭発明者として、これまで国内出願57件・登録26件、海外出願65件・登録29件を達成してきました。特許の源泉はアイデアであるので、日々意識して情報収集に努めています。入社当時は、技術の明細書を書くだけで四苦八苦していましたが、今となっては自分のアイデアの中から特許性を見いだして、そのアイデアから逆算して入り口を設定できるようになりました。長年続けてきたからこそ、スキルとノウハウが身についたのだと思います。

また、もう一つ意識しているのは、自分で何でも調べることです。大学と共同研究するようになって感じたのですが、彼らの多くは一つの現象について体系的に説明します。観察・分析を行うにはそれぐらいきちんとした知識を持っていなければならないのだと感じたのです。現象に対して体系的に全体を把握することが、技術開発には必要不可欠。一部分だけ理解しているよりも、長期的に見たらアプローチ方法も増えますし、スピーディーに開発を進めることができます。若い研究者・技術者にも、まずは自分で調べてみることを強く勧めています。

Chap.3
To the Next

専門性を高めることが自己実現

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技術者として一番心躍るのは、今、目の前で起こっている現象を解き明かして理解できた瞬間。それが事業貢献につながれば、さらにやりがいを感じます。開発したはんだ材料を社会に広めることで、お困りごとを広く解決していくことを続けていきたい。さらに、はんだ材料開発で得た技術を発展させて、持続可能な社会、水素社会の実現に貢献できる新しい材料を実用化して社会に広めること。これを自分の次の使命だと定めて、邁進していきたいです。