肩書きではなく、人となりでつながる。
100人カイギが育む未来づくりの隣人関係【6月monthly open circle】
私たちは普段の生活の中で多くの人と出会い、関わり合いながら生きています。一緒に仕事をしたり、あるいは余暇を過ごしたり食事をしたりする深い関係から、軽く会釈を交わしたり挨拶をする程度の浅い関係まで、その関わり方はさまざま。
なかでも都市生活においては、電車やバスといった公共交通機関をはじめ、オフィス街や商業施設などで「顔は知っているが話したことのない人」と多く出会います。社会心理学者のスタンレー・ミルグラムは、これらの人々を「Familiar Stranger(見覚えのある他人)」と呼称。その数は数百人から数千人にも上るそうです。
日常的に多くの人と出会う一方で、私たちが関係を築いているのはごくわずか。同じ建物に勤務しており毎日顔を合わせるものの、エレベーターで会っても一言も話さない。たくさんの人が集まる街でともに暮らしていながら、そのほとんどは名前も知らない。それが実情なのではないでしょうか。
こうしたことに違和感を覚え、「人と人とのつながり方が変われば街で暮らすのがもっと楽しくなるはずだ」との考えから立ち上がった企画が、今回取り上げる「100人カイギ」です。
全国各地で街の“見覚えのある他人”たちをつなげ、豊かな隣人関係を築いてきた100人カイギ。2026年6月のmonthly open circleは、同企画から我々が目指す未来づくりの隣人関係について考えます。
イベント詳細
公民連携まちづくりプラットフォーム「KKPC」から生まれた、月例の対話型イベント。パナソニックHDのTechnology CUBEを拠点とする「base」と、門真市立文化創造図書館KADOMADOで地域へ開く「field」の二つの場から構成されており、それぞれを循環させることで新たな問いや気づきを創出。多様な人が未来づくりの“隣人”としてつながる、学びと対話の場を設けています。
登壇者紹介
高嶋 大介(Takashima Daisuke)
全国各地で開催されているコミュニティ活動「100人カイギ」の創設者(Founder)・見届け人。富士通株式会社でUXやデザインリサーチ、マーケティング戦略などに従事する傍ら、2017年に一般社団法人INTO THE FABRICを設立。現在は株式会社INTO THE FABRIC代表取締役として、「人と人とのゆるやかなつながりが、新たな挑戦や地域の未来を生み出す」という考えのもと、組織戦略やコミュニティデザイン、イベントマーケティングを通じ、人と企業、地域社会をつなぐ場づくりを手がけている。著書に『100人カイギをはじめよう!』。
肩書きより人となりで街の隣人とつながる
公民連携まちづくりプラットフォーム「KKPC」から生まれた、目的のない会議「monthly open circle(moc)」。2回目となる今回は、パナソニックHD研究開発拠点「Technology CUBE」の8Fにある「ひら区(共創区)」にて開催されました。
2026年6月のmocのテーマは「人を動かすコミュニティの熱量と『伝え方』の極意」。講師に株式会社INTO THE FABRIC代表取締役の高嶋 大介氏を迎え、「100人カイギ」の取り組みからコミュニティ形成のプロセスについて学びます。
冒頭、高嶋氏は自身の経歴を簡潔に紹介し、講演の趣旨について「100人カイギの取り組みを中心に、自己紹介で変わる人と人とのつながり方を紹介したい」と説明。前半パートでは、主に100人カイギ立ち上げの背景とこれまでの歩みが語られました。同氏は趣旨説明ののち、豊富なスライド資料を参考に、100人カイギについて丁寧に説明を始めます。
「100人カイギは2016年に東京都港区で誕生した、地域で活動する100人の話を起点に“ゆるい人のつながり”を生む活動です。内容はとてもシンプルで、各回5人のゲストを地域から招待し、約10分間で自己紹介します。その後、ゲストを含め集まった地域の人たちで交流会を実施。お互い“顔見知り”になれるくらいのゆるやかな関係を築いています」。
同コミュニティで何より大事にされているのは、肩書きや属性ではなく「想い」でつながること。ゲストはメディアで取り上げられるような有名人に限らず、地域で活動する在勤・在学・在住者といった多様な背景を持つ方々が招聘され、登壇しています。この理由について高嶋氏は、「ちょっとした相談ができたり、一緒にランチに行けたりする“距離の近い関係”を大事にしている」と説明。参加者同士が有機的につながるゆるやかなコミュニティを目指して運営されてきました。
高嶋氏がこうした身近な関係にこだわる背景には、100人カイギを立ち上げるきっかけとなった原体験があります。同氏は100人カイギの公式HPにて、「同じ会社に勤めていても1度も話したことがない人がいることに気づいた」と過去の体験を紹介。港区という大都会で過ごすなかで、身近なのにもかかわらずまるで知らない人たちがいることに強い違和感を覚え始めます。
そこで同氏は、隣のビルの人の話を聞きたいとの思いから堅い話抜きで話せるイベントを開催することに。結果は大成功だったようで、当時のことを「『こんなことをやっている人がいるんだ!』という発見が多くあったことに加え、参加者同士がお互いの話に触発されていく様子が素直にとても面白かった」と振り返っています。
「街にはたくさんの人々が暮らし、生活を営んでいるのにもかかわらず、お互いに全くつながらないまま日々が過ぎていく。当時はそこに不自然さや他者に対する無関心さを感じていました。この部分が変われば街での暮らしはちょっと楽しくなるんじゃないかと考え、地域の人たちがつながるイベントを始めたんです」。
TED | Why you should talk to strangers | Kio Stark
始めた当初は高嶋氏の生活圏だった港区のみの開催で、あくまで個人の趣味のイベントだった100人カイギ。しかし会を重ねるごとに地域に自然と広がり、2026年5月時点では全国142箇所もの地域で開催。総参加者数は約76,000人を超えるまでに成長を遂げました。現在も各地で新たな100人カイギが誕生し続けており、街の人々を“見知った隣人”としてつなげ、ゆるやかな関係を育んでいます。
コミュニティに“再現性”と“終わり”をデザインする
これまで緩やかな成長を続けてきた100人カイギ。全国140箇所以上もの地域で開催されるに至った背景には、同会ならではの工夫がありました。
「100人カイギを広げるために重視したのは、誰もが簡単に開催できる“再現性”のあるイベントデザインです。過去の実践から、ゲスト5名の自己紹介を聞くだけで参加者の方々が満足してくれることはわかりました。そのためプログラムはそのままに、オペレーションを簡略化して運営の負担を極力下げ誰でも再現できるようにデザインしました」。
こうした試行錯誤を重ねた工夫があり、100人カイギは全国規模へと拡大します。「ゲストが100人集まれば解散」というコンセプト通り “終わり”がデザインされていること。現に140箇所以上で開催されている同会のうち、約半分の70箇所がすでに解散し、その後各地で新しい活動が始まるきっかけになっています。
高嶋氏はコミュニティに“終わり”を設計する意図について、「はたして続けていくことが良いことなのか」と疑問を呈します。その背景には、活動を続けるなかで見えてきたいくつかの課題があるといいます。
「コミュニティを続けていると、次第にいくつかの問題が生じます。結果それらがコミュニティを終わらせる原因になるのですが、最初から終わりを設けておけばこうした問題は起こらないと考えました。そのため最初からコミュニティの設計に解散を盛り込んでいます」。
同氏はコミュニティを継続するなかで生じる問題を、自身の経験から「運営者の熱量の低下」「メンバーの固定化による新陳代謝の停滞」「場を壊す人やマウンティングをする人の出現」の3点に整理。これらの問題を生じさせないために、あえてゲストが100人集まるタイミングで解散することをルールに明記しました。
「ゴールが見えていれば、いつまで走れば良いのかがわかるので、運営メンバーの熱量を維持できます。メンバーの固定化についても、一度解散してリセットすればまた新しいコミュニティが立ち上がるので、健全な新陳代謝を起こせます。さらに、コミュニティを継続することで古参化し、コミュニティにコミットが高くなりすぎると他者に対して高圧的になり場を壊す人も現れることもあり、この抑止にもつながります。こうした理由から、立ち上げ当初から解散をルールに設けてこれまで守ってきました」。
“再現性”と“終わり”のデザインによって熱量を維持しつつ、健全なコミュニティを全国各地に活動を広げてきた100人カイギ。たとえコミュニティを解散したとしても、100人の地域のゲストと隣人関係を築いた運営者は、その後地域のコミュニティマネージャーとして育ち、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)を元手とした新たなプロジェクトを立ち上げたり、街を楽しむ視点を獲得したりといった、確かな資産と「その次」のステップが生まれているとのことでした。
肩書きや属性ではなく、人となりを伝える自己紹介を
前半の説明パートを終えて休憩を挟んだのち、プログラムは後半の自己紹介ワークショップへ。実際の100人カイギのプログラムに倣い、参加者の中から事前に準備してきた4名がそれぞれ自己紹介を行いました。
4者の自己紹介が終わったあと、高嶋氏から「実は2名の方には、事前にこちらから共感される自己紹介をしてもらえるように“100人カイギ流の自己紹介方法を説明”していました」と種が明かされます。会場の反応を確認しつつ、それぞれの自己紹介がどのように違ったのか、同氏はスライドを用いて丁寧に説明を始めました。
「一般的にビジネスの現場で名刺交換をする場合は、相手に自身や自社を売り込むために、会社名や役職といった名刺に書かれている情報、つまり自分にどういった価値があるのかを中心に紹介しますよね。先ほどの自己紹介で何も仕込んでいないお二方は、そうした自己紹介になっていたかと思います。一方、100人カイギでは人柄を重視しており、個人としての考えや想いを伝えることを大事にしています。そのため、事前に説明を聞いていたお二方は人となりが伝わる自己紹介に仕上がっていました」。
高嶋氏は、続けて「自己紹介を聞いてつい話しかけたくなる人と、そうじゃない人がいる」と説明。両者の差を、先述の自己紹介の違いを踏まえ、「その人自身の物語があるかどうか」だと話しました。
たしかに、肩書きやキャリアを中心とした話ばかりで営業トーク然とした自己紹介をする人には、近付き難い印象を抱きます。一方で、その人ならではの想いや価値観を知れれば、会社の名前や肩書きではなく、人対人の関係を結びたくなる。同氏は「自己紹介は目的に応じてするものでどちらも優劣は無い」としつつも、その効果の違いを繰り返し強調しました。
人対人の関係を築く「伝え方」の実践ワークショップ
100人カイギ独自の人対人の関係を築く自己紹介について説明されたのち、最後のワークショップへ。会場の参加者それぞれが普段の自己紹介を振り返り、「伝わる自己紹介」へとアップデートを図ります。
冒頭、高嶋氏はワークショップの流れを3段階に分けて説明。最初に普段行っている自己紹介について振り返り、続いて下準備として自身の想いや価値観をワークシートに整理。最後に文章を整え、グループ内で発表という流れで進行する旨を伝えました。
ワークショップでは、黙々と個人ワークに没頭する参加者や、近くの参加者とコミュニケーションを取りながらワークシートを見直す参加者など、思い思いに取り組む様子が見られました。普段と異なる自己紹介のため、ワークに戸惑う人が一定数いるかと思いましたが、指定された時間より早くワークシートを書き上げ、グループ内で積極的にコミュニケーションを取る様子から、心配は杞憂に終わりました。
ワークショップは時間いっぱいまで盛り上がり、各テーブルとも和気藹々とした雰囲気に満ちていました。高嶋氏は「今日はあくまで“さわり”の部分を取り上げたに過ぎません。ぜひ今後さまざまな場面にあった自己紹介を工夫し、実践してみてください」と述べ、会を締め括りました。
見覚えのある他人を、未来づくりの隣人へ
毎日のように顔を合わせながら、言葉を交わしたことのない人。スタンレー・ミルグラムが「Familiar Stranger(見覚えのある他人)」と呼んだ存在は、私たちの身の回りに数え切れないほどいます。
100人カイギが目指しているのは、その「見覚えのある他人」を「顔見知りの隣人」へと変えていくことでした。肩書きではなく人となりを知り、互いの想いに耳を傾ける。今回のmocは、その小さな一歩が新たな挑戦や協働を生み、街や組織の未来を少しずつ豊かにしていく未来を見せてくれるものでした。
我々の取り組みもまた、そんな未来づくりの隣人と出会うための場。今日の出会いが、誰かの次の挑戦を支えるきっかけになるのかもしれません。
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