“目的のない共同体”が、企業と生活者の隣人関係をつくる【公民連携まちづくりプラットフォーム「KKPC」】
高度経済成長期に確立された“職住分離”のライフスタイルにより、仕事と暮らしの距離が遠く離れ、「働くための場所」と「生活を営む場所」が明確に分けられた現代。それぞれが目的に合わせて最適化された一方で、いつしかお互いの姿が見えなくなり、企業と生活者の間には大きな隔たりが生まれました。
この溝をそのままに、企業は生活者が真に求める製品・サービスを生み出すことは可能なのか。否、それは不可能だと、パナソニックホールディングス株式会社執行役員グループCTOの小川 立夫さんは喝破します。
「新しい技術を世に出す際には、実際に街で生活している皆様や企業の方々と関係を築き、一緒に仕事をすることがとても大事です」。
こうした考えのもと、新たに誕生した研究開発拠点「Technology CUBE」では、“共創区”と呼ばれる場を設置。多様な人々が集い、新しいことを生み出すために開かれた同エリアは、保安さえ通ればあらゆる人が行き来できるようになり、実際にさまざまな連携が生まれています。
この“共創区”を活動拠点とし、門真市の未来づくりを担うのが、本稿の主役である公民連携プラットフォーム「KKPC」です。同コミュニティの取材からは、新しい共同体の在り方と、その可能性の広がりが見えてきました。
“目的のないコミュニティ”を設計する
門真地域における未来の街づくりの新しい形として、全国各地から注目を集めている公民連携まちづくりプラットフォーム。門真市、京阪ホールディングス株式会社(以下「京阪HD」)、パナソニックホールディングス株式会社(以下「パナソニックHD」)、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下「CCC」)の4者から成り立つ同コミュニティは、それぞれの頭文字をとって「KKPC」と名付けられました。設立から日が浅いにもかかわらず、関係者から熱視線が向けられる同コミュニティには、他ではあまり類を見ない独自の設計がされています。
「KKPCの特徴は“目的がない”こと。一般的なプロジェクトチームでは達成すべき目的があったり、指標が設けられていたりしますが、当コミュニティはあえてそれを設けていません。複雑性を増すVUCAの時代においては、状況に応じて柔軟に方向性を変える必要があるため、目的志向過ぎると機動力を欠く恐れがあり、適さないと考えたためです」。
コミュニティの設計意図を解説してくれたのは、KKPCの中核メンバーとして立ち上げの時期から関わってきた、パナソニックHD/EX革新課でリードリンクを務める福井 崇之さん。アメリカの社会・政治学者、R.M.マッキーバー氏が提唱する「社会集団の分化理論」を用いて、KKPCの特徴を次のように説明しました。
「従来のプロジェクトチームは、最初に明確な目的や役割が設定されており、各者が利益やKPIを前提に参画していました。そのため、目的や方向性が変わったり、プロジェクトが完了したりすると、都度解散することとなります。一方で、KKPCは人と人との関係性が根底にあり、目的の変化を前提に柔軟な設計がされているため、持続的な価値創造が可能です」。
従来の“目的達成の手段”としての集団を「アソシエーション型」、KKPCの設計に応用している集団そのものを目的とする有機的な共同体を「コミュニティ型」と整理した福井さん。アソシエーション型の集団ではプロジェクト終了時に何らかの形で引き継ぎが行われない限りそこで培われたノウハウやカルチャーが失われますが、コミュニティ型の集団においてはそれらが蓄積されていき、持続的に価値創造が可能になると話しました。
「アソシエーション型の組織では短期的な成果を重視するのに対し、コミュニティ型の組織では成果を生むための土壌づくりに価値を置きます。結果だけを見るのではなく過程にも着目し、そのプロセスを豊かにすることで、持続的に価値創造ができる集団を育むことができると考えています」。
KKPCに漂う“面白さ”と“心地良さ”
他のプロジェクトではあまり目にすることのないこの形態を「面白い」と評価し参画を決めたのが、新たに門真市に誕生した文化創造図書館「KADOMADO」の館長でありCCCの組谷 明豊氏です。同氏は「このコミュニティにはワクワクとした高揚感を覚える」と話し、その実感を次のように説明しました。
「目的や目標が明確に定まっていないからこそ、時代のトレンドや地域の課題、集まっている方々のやりたい思いに合わせて進む方向が変わる。その柔軟さが面白いし、良い意味で企業的でなくてとても心地良いと感じました。加えて、メンバーの皆さんの本気度が高いのも良いですね。それぞれが出した課題をまるで自分事のように真剣に考えてくださる。だからこそ、我々も真剣に向き合おうと思っています」。
組谷氏同様KKPCに大きな期待を寄せ、アイデアやアセットの提供だけでなく、大小問わずさまざまな相談をしているのが門真市です。同市役所のまちづくり部の清水 義之氏は、「この場には心の壁が溶けるような感覚がある」と、KKPCに満ちる柔らかさを魅力に挙げました。
「KKPCでは行政や企業といったお互いの肩書きを脱いで関われる、ある種の気軽さがあるように感じます。メンバーの関係も人対人の関係がベースになっているので、組織上の忖度やおもねり合いも無い。無理なものは無理と本音で言い合える。そうした本当の意味での心理的安全性があると思います。とはいえ大人同士ですし、組織間の関係もあるのでバランスは大事。ゆるすぎず硬すぎず、バランスのいい距離感を保てるスキルを持った方が多いからこそ、こうした気軽さが維持できているのではないでしょうか」。
一般的に“企業人”として参加するコミュニティでは、それぞれの背負っている看板の重さゆえに、言いたいことや言うべきことが言えない場面が多くあります。しかし、人対人の関係がベースにあるコミュニティ型の集団では、そうした組織の壁が溶けるようになくなるのだと、清水氏は説明しました。
さらに同氏は、続けて「メンバーの誰もがKKPCのメインプレイヤーであり、ストーリーを自分事で語れるのも良い」と魅力を付け加えます。
「自分がメインじゃなかったり、途中で参加して詳しく知らなかったりで、自分を主語にして語れないコミュニティもあるじゃないですか。KKPCはそうじゃなくて、みんながみんなそれぞれのストーリーを持っていて、自分事としてKKPCを語れるんですよ。それってメンバーそれぞれのコミットメントの強さであり、多方面に発信できるので、とても強いですよね」。
こうしたメンバー間の信頼関係や、場に満ちる心理的安全性はどのように育まれてきたのでしょうか。京阪HDの難波 正行氏は次のように分析します。
「福井さんに組谷さん、清水さんといったKKPCの素晴らしいメンバーに出会えたことは偶然としか言いようがなく、出会いそのものはコントロールできません。しかし、その後の関係が育まれてきた経緯を振り返ると、“場所”と“時間”が大きく影響していると思います」。
難波氏によれば、立地がよく開かれた場であり、誰もが足を運びやすい『EXL』や『Technology CUBE』において、
Monthly Meeetupのような学びと交流を軸とした濃密な時間をともに過ごしたことにより、お互いの関係が築かれたのではないかとのこと。
「いつまでもお互いのことを企業名で呼び合っていたのでは関係は深まりません。会議室で短時間の仕事の打ち合わせを繰り返していても、今のような関係にはならなかったでしょう。ともに学び、語らい、人対人で関われる特別な時間を一緒に過ごしたからこそ、お互いにとって心地の良い場になっているのだと思います」。
KKPCの連携が生んだ、地域へ浸み出すミートアップ「moc」
従来型の明確な目的を掲げて集まった集団ではなく、お互いの関係を基盤とし、豊かなプロセスバリューを育んできたコミュニティ型集団「KKPC」。それは結果的に多くのプロジェクトを生む肥沃な土壌となり、門真市にさまざまな種を芽吹かせ始めています。
そんな数多あるプロジェクトの中でも、KKPC“らしさ”があらわれた取り組みが「Monthly Open Circle」、通称「moc」です。KKPCの特性である“目的のなさ”を倣った同企画は、パナソニック「Technology CUBE」で開かれる「base」と、文化創造図書館「KADOMADO」で開かれる「field」の二段構え。前者はKKPCのコアメンバーを対象としたクローズドなイベントで、後者は広く市民に開かれたオープンなイベントとして設計されました。
こうした設計意図について、福井さんは次のように説明します。
「取り組みのきっかけは、『生活者のそばへ』という強い思いです。我々はこれまで実験室にこもって研究や実証実験をしていましたが、それでは生活者の方々の視点を欠いてしまう。この先新しい技術を生んでいくためには、もっと現場に近いところへ行く必要がありました。そのため、地域の“浸み出す”場としてCCCが運営する文化創造図書館『KADOMADO』でのmocをオープンにし、地域の方々と広く関われる接点を設けたのです」。
長くまちづくりに関わってきた難波氏は、この動きを“本気”だと評価。組谷氏と口を揃え、「以前と比べて社外でパナソニックの方と出会う機会が多くなった」と、熱っぽく語りました。
「これまではまちづくりと言っても、社内の会議室で行われることが多く、あまり地域に出てこられる印象がありませんでした。しかし、最近になってそれが一気に変わった。それも一部の社員だけでなく、執行役員である小川さんやEX革新課の福井さんが率先して社外に出て、地域の方と関わる姿勢を見せている。これはすごいことです。パナソニックは本気なんだと思いました」。
開かれた場を設計して来訪者を待つだけでなく、自らが地域に出て積極的に関わろうとする姿勢。それはまさに「技術未来ビジョン」に示された、「企業と生活者がひとつの街で、未来づくりの隣人になる」の文言を体現するものでした。
難波氏は取材の最後、KKPCに集まった豊富なアセット、そしてmocを通してつながる多様な人々の可能性から、「門真がいろんな人の夢ややりたことを形にする“舞台”になれば嬉しい」と街の未来を展望。組谷氏も、「自分のやりたいことを表現できる土壌がKKPCで育まれたら」と目を細めます。清水氏は、「KKPCは異なる立場の人たちの考え方を学べる場所だ」と話し、このコミュニティが行政と民間の相互理解を深める場になることを期待すると述べました。
人と人との関係を基盤とした、目的を持たないコミュニティ型の集団。それは新しいように見えて、実は古くからある地域コミュニティの形そのものです。地域で暮らし、生産活動を営んできた企業と生活者。両者の溝を埋めるのは、そうした長く続いてきたコミュニティの在り方に、ヒントが隠されているのかもしれません。
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