どこにも負けないスピードで材料開発を目指す
専門:電気化学、触媒、半導体、計算科学
視野が広がる機会を大切に
大学時代、光触媒を使って水を分解し水素を作る研究をしていた上野研究員。パナソニックでも同じ研究テーマがあると知り、入社を決めた。研究室訪問で直感的に「おもしろそう」と感じたのが化学を選んだ理由だという。その中で光触媒を研究テーマに選んだのは、エネルギーの分野に興味があったから。水素を作る方法は光触媒以外にもいろいろある、挑戦的なテーマで先進的な技術という点に惹かれたのだ。現在はMI(材料インフォマティクス)を活用した電池材料の開発にチャレンジしている。エネルギー分野には光触媒であれ、電池であれ興味があったという。上野は「広く知りたいという気持ちがあったので、視野が広がる機会になった」とうれしそうに語る。MIの印象については、学生の頃から話は聞いていたけれど、機械学習の効力を理解していなかったという。
大切なのはうまく使えるケースを探すこと
材料研究者の目線でMIを活用する場合一番に浮かぶイメージは「どのように使えば材料開発にとって効果的であるかを考えること」と説明する。データ科学が浸透する中で、それを使わないのは不利なこと。他社が様々な成功事例を挙げてきつつある中で、使わない理由はない。ただし使い方が重要で、うまく使えるケースや手法を探すことこそ、大事なことだと考えている。材料研究者が一番困るケースは、「目的の物性を満たせない」とわかったときに、新たな指針を導くのに時間を要することだという。それまでの経験を元に試行錯誤を繰り返し新しい指針を探すが、多くの場合それには膨大な時間がかかる。それを早く回す手段としてMIがあるのだ。材料研究者にとって大事なのは、まず理論を理解していること。この前提のもと、実験でうまくいったケース、うまくいかなかったケースを比較することで法則性が見えてくる。このパターンマッチングを何らかの特徴量で記述するのがデータサイエンスの世界だという。材料技術者とAI技術者は基本的に専門用語が違うので、誤解が生じることもあるとしながらも、お互いの領域を勉強することで歩み寄りを感じているそうだ。
可能性を秘めた未知のものを求めて
「新規材料を追い求めるのが好き」と語る上野。「今まで世の中になかった材料を見つけたい」と目を輝かせる。既存材料の性能をあげるのはもちろん面白いこととしながらも、「未知のものには、今までにない可能性がある」とその魅力を語る。そして、その新規材料の発見をMIで加速することを狙っている。材料、機械学習、シミュレーションという3つの分野をしっかり組み合わせて理解・活用し、どこにも負けないようなスピードで材料開発を目指していきたいという。MIはアメリカが先行しているとしながらも、「データの質や量自体はしっかりしているので、導入が遅かった日本も、眠っているデータを有効活用することで、ここから巻き返せる」と自信をのぞかせた。過去には、特許を500件出したという伝説の技術者もいるほど、優秀な人材が集まるパナソニックで、多種多様なメンバーに囲まれて切磋琢磨の毎日を送っている。異動を機に「武器を持ちたい」と考え、機械学習の勉強を始めたという上野。将来的には材料と同じくらいの知識を身につけたいと語る。