フォトニクス技術でイノベーションを起こす

フォトニクス技術でイノベーションを起こす

最先端技術から世の中に役立つもの作る

「社会を変える技術のブレイクスルーを生み出すこと」をミッションに活動していると語る、稲田研究員。その原点は、大学で“光”に関する基礎研究をしていた際に芽生えた「最先端の技術を使って世の中に役立つような商品を作りたい」という思いである。光デバイスの研究を選んだのは、指導教官が手作りのレーザーをデモするプレゼンに「すごいな」と感じたのがきっかけ。レーザーを作るところから始めた研究者としての道。次に芽生えたのは「このレーザーを使って何かをしたい」という気持ちだった。これをきっかけに研究テーマのシフトを決断。博士課程に進学し、レーザーを使って量子現象を解明する基礎研究に没頭し、その面白さと、世界トップの研究者と切磋琢磨しながら研究成果を出す厳しさの両方を経験した。その中で、「最先端の研究」を社会に役立つように生かせば、もっと世の中に貢献できるのではないかという気持ちが芽生え、アカデミックへの道ではなくパナソニックを選んだ。

インタビュー風景

集積フォトニクス技術で「スマートなセンサー」を生み出す

研究職で入社し、最初に取り組んだ仕事は次世代照明の研究。パネルのように薄い照明に、どういう仕組みを入れれば光が効率よく出せるのかを設計していった。光の専門家として、構想はいくらでも出せるものの、現実的なものづくりとの擦り合わせに苦労したという。この次世代照明の技術は、事業部へと引き継ぐことができたものの結果的には事業にはならなかったことに、「もっと頑張らなければ」という反省が生まれたと振り返る。この経験から、「技術」だけでなく、それをいかに「価値」に結びつけるかが本当の意味でのイノベーションであるという考えに改め、現在はスマート社会の実現に向けたセンシング技術という切り口で研究開発を進めている。
今目指している商品のキーワードは「スマートなセンサー」。「スマート」のイメージは、ただ高機能なセンサーではなく、人間がしているように見るべきポイントを集中してセンシングするということ。例えば、人が車を運転するときには、右に曲がるときは右側をより注意して見る、高速走行時は遠くをより注意して見る、といった動作をすることで効率よく、抜けのないセンシングを行っている。このような動作を光センサーで実現するには、単純にはモーターなどのメカニカルな駆動機構を入れてセンサーの向きを変えるという方法もあるが、サイズ・コスト・動きのスピード等を考えると、できることに限界がある。そこで、集積フォトニクス技術を活用し、「メカレス」に光を制御する機能を1つのチップ上に載せて、超小型・高機能を実現していく。これにより、機械の目となるような周辺の空間情報をセンシングするデバイスを生み出す。実現すれば、機器はより賢くなり、車をはじめ、ロボットや工場、家など、様々な場面で広く活用できることが期待できる。

インタビュー風景

最先端の技術を育ててイノベーションへ

いろいろな良いところを組み合わせて作るのが好きな性格なので、パナソニックは最適な場所だと稲田は強調する。「ひとつの技術で突き抜けることも重要だが、他の技術も取り入れながらもっとすごいものを作りたい」と語る稲田は、その重要性を以下のようにとらえている。新しい技術を生み出すところ、つまり0から1を作るところではひとつの突き抜けた技術で突破すればよい。ただ、そこから商品化までの1から100に持っていくところは、他の技術を取り入れながらその技術をしっかり育てていかないといけない。そのために必要なことは2つ。ひとつは世の中の動向を把握したうえでの「最先端の研究」。「井の中の蛙はダメ。世界一、世界初にこだわる」と語る。もうひとつは「技術を集結し、商品化までもっていくこと」。パナソニックの総合力を活かすことは当然のことながら、社外のパートナーも巻き込み、力を結集することが大切だと考えている。現在、ディスプレイや光ディスクなどの技術者やイメージセンサの技術者と組織の垣根を超えて連携しながら開発を進めている。

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稲田 安寿
稲田 安寿

専門:フォトニクス、光物性、量子力学【博士(工学)】
テクノロジー本部マテリアル応用技術センター

※所属・内容等は取材当時のものです。