【8月EX Monthly Meetupレポート】
日本一チャレンジする町の、挑戦が流入し続ける構造〜埼玉県横瀬町編〜
人口減少や産業の縮小など、地方が抱える課題は複雑さを増し続けています。
その一方で、「挑戦が自然と集まり続ける地域」も存在します。
今回のMonthly Meetupで取り上げるのは、埼玉県横瀬町の事例。人口7,500人ほどの小さな自治体でありながら、町外から多様な提案や人材が継続的に流れ込むことで、新しい動きが絶えず生まれている地域です。
行政が全てを抱え込むのではなく、外部の人・資金・アイデアを受け止めるための仕組みを整え、小さな挑戦を着実に実行へつなげていく。その仕組みの積み重ねが、町全体の実行力と柔軟性の源になっている同地域。
挑戦を自らつくるのではなく、挑戦が流れ込む環境を整える。横瀬町が実務を通じて育ててきた、その独自の土台を今紐解きました。
イベント詳細
EX革新活動をするメンバー同士が活動を共に振返り、フィードバックをし合い、新たな学びの視点を持つことで、今後の活動を加速させることを目的として立ち上がった学びの共有の場。現在はより柔軟に形を変え、社内外の知見を組み合わせることで、新たな共創の形を生み出すことを目的とした、テーマ型のオムニバス形式の勉強交流会へと成長しています。
2025年8月度のテーマは「まちづくり」。埼玉県横瀬町の役場より、まち経営課 連携推進室長の田端 将伸さんを招聘し、挑戦しやすい仕組みづくりや多様なステークホルダーを巻き込むモデルについてお話しいただきました。
登壇者紹介
田端 将伸(たばた まさのぶ)
横瀬町役場 まち経営課 連携推進室長/官民連携コーディネーター
横瀬町で生まれ育ち、役場に入庁してから税務、財政、観光など幅広い業務を経験。自治体が抱える構造的な課題に向き合う中で、「小さな町だからこそ挑戦できる」という信念を育む。2016年の官民連携プラットフォーム「よこらぼ」立ち上げ以降は、行政・住民・民間・外部人材が共に挑戦する“余白のあるまちづくり”を推進。年間100人ずつ人口が減る町でありながら、約7年間で140件以上(よこらぼ1st期間)のプロジェクトを生み出すなど、関係人口の拡大と挑戦文化の醸成に大きく貢献している。スピード感ある意思決定と、挑戦を受け止める土壌づくりを行政内に根づかせる役割を担うキーパーソン。
挑戦が根づくまち——横瀬町が示す“余白”という選択
8月のMonthly Meetupは、真夏日の最中、お昼時に幕を開けました。開始前の会場では、初参加の方も常連の方も、名刺交換をしたり互いの興味関心を語り合ったりと、思い思いに交流していました。「今日は横瀬町の話が聞けると聞いて楽しみにしていました」「地方の挑戦事例に興味があって」。そんな声が自然とあちこちから聞こえ、会場には静かな期待感が漂っていました。
冒頭、EX革新室の甫足さんから開会の挨拶があり、その後今回のゲストである横瀬町役場の田端将伸さんの紹介へと移りました。田端さんは、甫足さんからバトンを受け取ると、ユーモアたっぷりに自己紹介したのち横瀬町の姿を丁寧に紹介しました。
「横瀬町は、埼玉県の秩父地域にある小さな町です。人口はおよそ7,500人で、年間100人ずつ減っていくような状況です。産業も強くはなく、農地の維持も難しくなっている。医療体制も脆弱で、小児科もありません。でも、私は“だからこそできることがある”と考えています。今回のお話の中で、おそらく30回くらい『挑戦』や『チャレンジ』という言葉が出てきますが、最後まで辛抱強くお耳を傾けていただければ幸いです」。
地方が抱える課題をただ嘆くのではなく、そこから何が生まれるのかに意識を向ける姿勢。その背景には、課題を前に立ち止まるのではなく、進み続けるために挑戦し続けようとの田端さんの強い思いがありました。
そんな思いが色濃く反映されているのが、横瀬町の「総合振興計画」。未来像を描くうえで大きな転換点となった同計画は、かつて130ページあった計画を大胆に28ページへと縮め、社会情勢の説明や“ただの前提情報”を可能な限り削ぎ落としたといいます。
「計画って、分厚く作れば作るほど安心した気になるんです。でも、計画通りになった試しなんてほとんどない。だから私たちはあえて決めすぎず、変化を許容する柔軟性のある計画を立てました。未来は行政が全部決めるものではなく、民間や住民、外部の人と一緒に育てていくものだと思っているからです」。
行政があまりに細かく全体像を決めてしまうと、新しい挑戦が入り込む余地はなくなります。だからこそ、横瀬町は未来をぎゅっと固めない。変化を受け止め、誰かの試みが入り込めるような“空白のスペース”をあえて用意しておく。その姿勢は、行政という組織が本来持つ“堅さ”とは最も対極にある柔らかさであり、地方自治の在り方を再定義するような考え方でもありました。
田端さんは「未来は固定化するものではなく、みんなでつくるものです」と語り、静かにこう続けました。
「チャレンジする人が増える町は、外部からの挑戦者が集まり、その挑戦が次の挑戦へとつながる流れのある町なんです。やりたいと思ったときに入っていけるスペースがある。それだけで、人は一歩踏み出せるようになります」
この“余白のデザイン”こそが、横瀬町の挑戦文化の入口にあたる重要な思想でした。田端さんのお話しは、こうして生まれた余白がどのように広がり、人々の挑戦を支える仕組みへと変わっていったのかに続いていきます。
チャレンジの連鎖をどのようにつくるか
発表の話題は、抽象度の高い計画の話からより具体性を増した話へと移ります。
横瀬町の取り組みの中核にある官民連携プラットフォーム「よこらぼ」は、行政の予算に依存せず、民間企業の投資や補助金を活用することで、多様な挑戦を受け止める器として機能し、2016年の開始以来多くの挑戦を受け入れてきました。田端さんは、その仕組みを次のように説明します。
「『よこらぼ』は、横瀬町が運営する官民連携プラットフォームで、町内外を問わず誰でも提案できる開かれた仕組みです。毎月25日に締め切り、翌月すぐに審査を行い、最短当日に決裁が下りるスピード感を大事にしています。行政はどうしても時間がかかりますが、民間等の挑戦を受け止めるには早さが欠かせません。また、行政が全部やるのではなく、外の力を引き出す器になることも大事にしています。外部の挑戦が入ると町民も刺激され、『自分もやってみよう』という動きが生まれます。こうしたチャレンジの連鎖をつくるのが、よこらぼの役割だと考えています」。
年間100人規模で人口が減る町において、外部からの提案が全体の約7割を占めている「よこらぼ」。都市部からの応募が多く、関係人口の拡大につながっているといいます。
「7年間で140件以上の提案が採択されていますが、予算がついたのはごくわずかです。多くは、企業の投資や補助金、クラウドファンディングなど、外部の資源を使って進んでいます。行政がすべてを抱えるのではなく、外の力を引き出すことが目的なので、予算に依存しない形でも十分に機能するんです」
「よこらぼ」の運営で重視されているのは、提案内容が「Win-Winになっているかどうか」。行政・提案者・住民のいずれかが一方的に損をする仕組みは採択しないという明確な基準が設けられているのも、同プラットフォームの特徴の一つです。
設立当初からスタートアップ企業を中心に多くの応募があり、毎月採択プロジェクトが増えてくると「行政側にノウハウは蓄積されてきますが、それ以上に毎月のプロジェクトの進行管理などが増えていく状態に、兼務の担当2名での“器の限界”を感じました。しかし逆に、これだけ民間企業と連携をしていると、もっと地域密着でより身近な課題解決ができる行政に近い“民間の器”が必要だとも」。
田端さんが指す“民間の器”とは、コロナ禍のさなかに町が設立した「株式会社ENgaWA」です。第三セクターの子会社として立ち上げ、役場の事業として進めるのではなく、民間の立場で柔軟に動ける組織をつくることで、官民両輪で挑戦の土台を整えようとしたのです。ENには出会いの“縁”、誰かのチャレンジを応援する“援”、そして地域経済を意味する“円”の3つがWA(循環)になるという意味が込められているそうです。
ENgaWAの設立には、地域の人材・資源を生かした事業づくりを進める意図がありました。町の農産物や特産品を活用した商品開発、加工品づくり、シェアハウスを活用したお試し移住の受け皿など、民間としての柔軟性が求められる領域を担う役割です。田端さんはこう続けます。
「役場がやれば早いこともあるんですが、行政でやると補助金頼みになったり、持続しなくなったりするリスクがあります。だから“行政が事業をやる”のではなく、“行政が民間の挑戦を支える仕組みをつくる”という姿勢に切り替えたかったんです。行政の強み弱みを知ったうえで、まず自分たちで会社をつくったのは、外の人に『この町は本気で挑戦しようとしている』と伝えるためでもありました」。
官民連携の取り組みが広がることで、町内には交流拠点も増えつつあるとのこと。カフェ、シェアスペース、移住希望者向けの住居など、多様なプロジェクトが並行して進行。偶発的な出会いや連携が生まれやすくなっていることは、挑戦を誘発する環境として機能しています。
「民間に動いてもらう前に、まず自分たちで動く。その姿勢がやがて外の挑戦を呼び込む」という横瀬町の実践。この土台があったからこそ、現在の横瀬町には多様なプレイヤーが集まり、新しい挑戦が連鎖的に生まれる環境が育っていきました。
小さな町を動かす「新しいテコ」
講演の終盤、田端さんは横瀬町が直面してきた現実について語りました。地域金融機関の撤退が続き、町から企業や店舗が少しずつ姿を消していく状況があったといいます。
「横瀬町では2つの金融機関の支店が無くなりました。銀行はゆうちょ銀行さんしか残っていない。そういう中で、新しい挑戦を受け止められる場所が必要だったんです」。
行政が単体でまちの課題を支えきれないフェーズが訪れたとき、横瀬町は“守り”ではなく“新しい資源をつくる”方向を選びました。田端さんは続けてこう述べています。
「今までの既存資源だけでは変えられないので、新しい資源だとか“テコ”が必要なんじゃないかと考えました。外から人・物・金・情報を継続的に流入させて、そこから化学反応を起こしていく。そのための仕組みづくりを進めてきました」。
町内の資源だけでは人口減少社会に対応できない。だからこそ横瀬町は、外部からの人材や企業を受け入れるための“入り口となる器”を先に整えてきました。
そして田端さんは、これからの地域運営に不可欠な考え方として「一円融合(いちえんゆうごう)」の考え方を紹介しました。
「一つの円、つまり関わる“人”や“企業”、“行政”など、全てに役割があり、一つの事柄が達成され、成長していくいう考え方です。行政だけ、民間だけで成立する時代ではありません。住民・行政・企業・外部の人が一体になって円をつくり、その円が融合していくことで、新しい動きが生まれていくんです」。
ここで語られたのは、個々の主体が単独で何かを成し遂げるのではなく、複数の主体が関わることで初めて町が動くという視点です。外部リソースを受け入れ、内側の動きを促し、複数の主体が重なり合うことで町が動く。横瀬町が示したのは、小規模自治体だからこそ実現できる“新しいテコの使い方”でした。
今回のMonthly Meetupでは、横瀬町がどのように挑戦を受け止め、動き続ける町としての基盤をつくってきたのかが共有されました。大きな構想や派手な施策ではなく、外部から届く提案を丁寧に扱い、実務を積み重ねる姿勢が印象的でした。
小さな町だからこそ実現できる軽やかな運用と、多様な主体が重なり合う仕組み。その連続によって、挑戦が自然と流れ込み、新しい動きが生まれ続ける環境が育っています。田端さんによって語られた横瀬町の実践は、これからの地域や組織が挑戦を続けるうえで、重要な示唆を与える時間となりました。
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