2025.12.08
私たちの働き方

共創が生まれる環境をどう整えるか。
パナソニックHD/EX革新室の挑戦の軌跡【イントレプレナークラブ@関西電力enellege(エナレッジ)講演レポート】

組織開発 新しい働き方

イベント詳細

新たな価値創造を目指し、社内起業家「イントレプレナー」の育成に力を注いでいる関西電力。1998年から、「企業風土の活性化」と「グループの事業領域の拡大」を目的に「かんでん起業チャレンジ制度」がスタート。2018年からは「アイデア創出チャレンジ」と「加速支援(アクセラレーション)プログラム」を組み込んだ3ステップでの社内起業家支援制度として運用されています。

これらの3つのプログラムが、毎年、1年間で1サイクルするイメージで、チャレンジを始めてからすでに20年以上が経過。関西電力の仕組み・文化として定着しました。

イントレプレナークラブは、そんな土壌のもと、イントレプレナーの育成や新規事業担当者の成長を目的に、社内外の多様なバックグラウンドを持つ参加者が集い、交流し、各社の知見や技術、社会全体の課題に触れることで新たな価値創造のヒントを探る企画です。

登壇者紹介

福井 崇之(ふくい たかゆき)

1989松下電器産業株式会社(現パナソニックホールディングス株式会社)入社。AVホームネットワーキングの国際規格の標準化や、テレビ、レコーダ向けの通信ミドルウェアの開発に従事。その後、北米向けCATV-STB事業や医療従事者向けの生涯学習サービスの事業立ち上げに携わり、新規事業創出活動に軸足を移す。同時期より、感情・情動に着目した行動変容の共同研究に取り組む。2016年、共創型の研究開発プロセスの試行の場として開設されたワンダーLAB大阪に参画。2019年より所長。2022年にはワンダーLAB大阪を発展させ、「仕事のやり方」そのものを研究開発し、組織開発からイノベーティブな研究開発の成果を支える事をビジョンに掲げに新設された「EX革新室」でリードリンクを務める。

浦川 貴史(うらかわ たかふみ)

2010年関西電力株式会社入社。営業を経験した後、一貫して人材・組織開発業務を中心としたキャリアを歩む。全社の健康推進業務、特例子会社にて障がい者雇用管理を担った後、人財・安全推進室にて、人材育成方針の策定、キャリア開発制度企画、次世代リーダー育成等を担当する。2021年より経営企画室にて、人事制度運用(異動、評価など)、人材育成、採用、労務管理全般を担当しつつ、経営層との対話活動等を通じた全社の組織風土改革を推進。

瀬津 勇人(せつ はやと)

デザイナー・クリエイティブディレクター・画家。1996年 富士通株式会社にデザイナー入社、ネット黎明期にオンラインマガジンteleparc編集室でnakata.netなどのデザインを担当。2000年 富士通からスピンアウトし彼方株式会社に。創業メンバー。2002年に世界一周し、帰国後2003年 ニフティ株式会社に入社。デザインチームを組織し、後にブランドデザイン部長と新規事業推進部長を兼務。オープンイノベーションとブランディング双方のメリットを事業に活かす。2017年「東京カルチャーカルチャー」などの事業譲渡を起案。同年、譲渡先の東急グループ イッツコムに入社。2019年 ライフシフトし独立、現職。

異質が混じり合う“汽水域”から新たな共創を

関西電力が主催する、社内起業家(イントレプレナー)育成や新規事業担当者の成長を目的としたイベント「イントレプレナークラブ」。開催当日は同社の社員のほか、さまざまな所属の方々が参加。専門領域も研究開発、新規事業開発、AI領域の事業開発、組織風土改善、D&I推進と、多岐にわたる領域で活躍するメンバーが集まりました。

会場を埋め尽くすほどの多くの参加者が集まった本会

会場となったのは、関西電力が運営するオープンイノベーション施設、「enellege(エナレッジ)」。個人や組織など、様々な枠組みを超えたパートナーとの交流や各種活動を通じて新たな価値を創造し、未来のあたりまえ、持続可能な社会の実現、社会課題の解決につなげていくことを目的として運営されている施設です。

グランフロント大阪北館ナレッジキャピタル3階に拠点を構える「enellege(エナレッジ)」

今回のイントレプレナークラブでは、関西電力で組織風土改革室のマネジャーを務める浦川 貴史さんと、パナソニックホールディングス株式会社より「EX革新室」リードリンクの福井 崇之さんの2名が登壇。モデレーターは、パナソニックホールディングス株式会社技術部門のアドバイザーである瀬津 勇人さんが努めました。

机にはアルコールも並び、和気藹々とした雰囲気の中でトークセッションが行われた
司会進行を取り仕切ったのは、関西電力イノベーション推進本部イノベーション戦略グループの松本 沙織さん

テーマとなったのは「EX革新室」。働き方のR&Dを担うこの部署について、同社の福井さんより、Missionとこれまでの沿革、現在の「EXL」が持つ役割などが説明されました。中でも会場の熱量が上がったのは、「共創」の定義についての解説パート。旧来の仕事のプロセスを刷新したことから見えた「新しい共創」を、福井さんは次のように説明します。

「我々の仕事の多くは、何かしらのお題があって、それを解いていくプロセスで進めます。しかし、今必要とされているのは、課題を解決するだけではなく課題を『発見する力』。課題解決と課題発見ではプロセスが異なります。我々は2005年にイギリスデザイン評議会が発表した “ダブル・ダイヤモンド・プロセス”を参照しており、左右で明確に分けて考えています」。

EX革新室で使用されている、「ダブル・ダイヤモンド・プロセス」

「従来の共創は、ダブル・ダイヤモンド・プロセスの右半分で起こっていました。事前に明確なテーマや課題を設定し、解決にあたって足りないピースを外部から集めて埋める形ですね。しかし、新しい共創は、左半分のプロセスから始まります。自分たちだけで課題やテーマを設定するのではなく、そこから共に描いていく。こうすることで、我々だけでは想像できなかった新たなビジョンが生まれ、結果として新たな価値創出につながっていくんです」

続いて盛り上がったのが、EXLの前身である「Wonder LAB Osaka」における“汽水域”について。同領域をつくり出した背景について、福井さんは次のように話しました。

「汽水域とは、川の淡水と海の海水が混じり合った水域のことで、豊かで特殊な生態系が育まれるのが特徴です。我々の部署では、社内にそうした異なる環境が混ざり合う場をつくるべく取り組んできました。大きな企業だと、海と川のエリアが明確に分かれており、両者は混じり合いません。ここをかき混ぜて汽水域を生み出そうと、アートやサイエンス、テクノロジー、デザインという4つテーマが混じり合うイベントを仕掛けました」。

豊かな生態系“汽水域”をつくる4つのテーマイベント

イノベーションにおいて「異質」はとても大事な要素。異質なもの同士がぶつかり合うことで、既存の枠組みを超えた発想や、これまでのやり方では気づけなかった問題の発見が可能になることは、すでに多くの人が理解しているでしょう。海水と淡水。それぞれ異なる生態系が混じり合う“汽水域”では、こうしたイノベーションの土壌としての効果が期待できるとのことでした。

ジャンルを一つに絞ることなく、多岐にわたるテーマでイベントを開催した結果、副次的な成果もありました。福井さんは、それを「社内の生態系がデータとして見えた」と話します。

「大きな組織になれば、社員それぞれが何を専門にしていて、どこに強い興味関心を持っているかを把握するのが難しくなります。しかし、“汽水域”のイベントを通して、そういったデータが参加者名簿で可視化されました。実際に宇宙関連のイベントを開催した際には、参加者名簿を通じて宇宙開発の部署からコラボレーションの相談があり、可視化されたデータの効果が確認できて嬉しかったですね」。

先陣を切り、事例をつくって組織風土を改革する

「技術者自身が作り、運営する」という意識のもと立ち上がったラボである「Wonder LAB Osaka」。社外の空気を社内に取り込み、“汽水域”をデザインした同施設は、実験の場としての機能も併せ持っており、これまでにさまざまな商品開発や実証実験が行われてきました。

「会社の中で新しいサービスや商品を開発すると、『これは本当に売れるのか?』という問いが出てきますよね。売れるか売れないかを知るには、実際に売ってみるのが一番良いんです。売ってみて売れなかったら、その結果に向き合って改善すれば良い。ほかにも、開発した商品を売るにあたって上記以外にさまざまな壁があります。そういった壁を一つ一つ乗り越えられるか、実験する場所が『Wonder LAB Osaka』なんです。」

Wonder LAB Osakaで生まれた商品・サービス。同施設を実証実験の場として活用し、ブラッシュアップを重ねた

Wonder LAB Osakaの取り組みは、これらの共創や商品開発から、次第に会社の制度づくりや文化醸成まで発展していきます。

「こうした共創事例は、新規事業を創ったり、新規事業を創る人を育てたりするにあたって必要な、会社の制度や環境を整えるのにも役立ちました。社外から人を迎える際のルールであったり、オンラインでやり取りをするにあたってのルールであったり、我々が先陣を切って整えてきたものがたくさんあります。こうした新しいことに挑戦できる環境を整えるのも、我々の仕事の一部です」。

福井さんのお話は、具体の話に引き続いて抽象の話へと進みます。Wonder LAB Osakaが共創ラボとして求められる役割について、ISO規格の図解を用いて説明しました。

「2019年には、組織がイノベーション活動を効果的に管理し、持続的に新しい価値を創出するための国際規格群『ISO56000』シリーズが誕生しました。我々はこのイノベーション100委員会に入っており、提唱されている考え方を参考にしています。

大きな組織においてはクリアしなければいけない条件が多く、このプロセスをスムーズにすることでできることの幅が大きく変わる

まず注目したいのが、“2階建ての経営”。既存事業と新規事業では、評価基準や人材育成の考え方が全く異なります。そのため、我々は両者を分けて考えてきました。続いて、挑戦と越境の奨励。自由にしても良いけど責任は取らせるとか、失敗を許さないといった風土では、挑戦も越境も生まれません。社員が存分に試行錯誤し、壁を超えて協働できる環境や制度を整える必要があり、我々は先述の通りそこに積極的に取り組んできました」。

ISO56000が誕生して数年。福井さんは上図にある通り、「枝葉の部分だけではなく、部門全体で取り組まなければ変わらない」と考え、働き方や仕事のあり方から見直す必要性を強く感じるようになったそうです。

働き方のR&Dを担う、EX革新室の誕生

Wonder LAB Osakaを起点とした共創事例から、制度設計、文化情勢へと話が展開された前半。ここから後半にかけて、話は働き方改革とEX革新室の取り組みへと進みます。

講演に熱が入る福井さん。持ち時間が残り10分というタイミングで最高潮に

「働くという言葉の歴史的な変化を追っていくと、19世紀までは肉体労働的な意味合いが強い『labor(レイバー)』が使われていました。そこから産業革命が起こり、機械化された仕事が増え、現在は『work(ワーク)』という言葉が使われています。これが今後どうなるのか。我々は『play(プレイ)』になるんじゃないかと考えているんです」。

福井さんの話を受けて、モデレーターの瀬津さんが、「働く」の言葉について次のように補足を加えます。

「スポーツ選手やミュージシャンのことを『worker(ワーカー)』とは呼ばず、『player(プレイヤー)』と呼びますよね。以前福井さんからお話を聞いたとき、我々の働き方や仕事への向き合い方は、少しずつそうなっていくべきなんじゃないかとおっしゃっていて、とても感銘を受けたんです」。

「働く」言葉の変遷について熱弁する福井さんと、それに応えるモデレーターの瀬津さん

このような考えから、2019年から働き方改革2.0活動「PLAY with」がスタートします。「PLAY with」は広告による行動変容モデルを参考に、社内報の形が取られました。

「広告の行動変容モデルに倣うと、『伝える』、『前向きに認識する』、『動く』、『動き続ける』といった、一連の流れに至る戦略を立案しなければなりません。ポイントは、これらの主語が社員であるということです。社員自らがこのプロセスを経て、最終的にありたい働き方を実現していくことが重要なのです」。

戦略では、ゴールから逆算して考えるべく、初めに最終地点を明らかにすることが求められました。そのため、社内でワークショップを実施し、社員それぞれが考える「ありたい働き方」を集約。6つの領域で整理しました。

ワークショップにて集約した「ありたい働き方」を6つのカテゴリーで整理したもの

これらをもとに、どのような情報発信をすべきかを考え生まれたのが、社内報である「PLAY with」です。

「タグラインは『しかめっ面からイノベーションは生まれない』。過去の常識や我々の常識に囚われず、楽しみながら、Playによってありたい働き方に変えていく。そのためには、内向きより外向きの視点に、足元固めじゃなく勇み足で、一人じゃなくてみんなを巻き込みながら、具体的な誰かが幸せになる姿を想像しながら働こうと、そんなメッセージを打ち出しました」。

改革の狼煙となる力強いメッセージが巻頭を飾る同誌には、働く社員の笑顔あふれる写真やプロフィール、魅力的な取り組みなどが取り上げられています。「我々の集団にはさまざまなプロフェッショナルがいる」と福井さん。そうした人たちが部門の壁を超え、掛け算で価値を生める集団になっていこうとのメッセージを込めたと話しました。

福井さんの言葉を借りると、働き方の「未来情景」を描いたメディアであると言える

閉会まで残りわずかとなったところで、いよいよEX革新室の話へ。駆け足ではありましたが、福井さんによって現在地が語られました。

「PLAY withで社員の巻き込み方や組織変革のアプローチを学んだのち、2020年7月にEX革新室が設立されました。組織を変えるには、まず自分たちが新しい組織になる必要があるとの考えから、同室はフラットな組織体制に。外部から専門家を招聘し、学んだ知見をEX革新室で実践して、その知見を他部門で展開する流れを設計しました」。

組織変革のために、まず自分たちの組織で変革を起こすことを大事にしている

パナソニックグループCTOの小川 立夫さんの言葉である『目覚ましい仕事の成果の背景には、素晴らしい仕事のやり方が伴う』を紹介し、結果を変えるなら、やり方を変える必要があると述べた福井さん。働き方改革を、学ぶ(研究)→試す(開発)→実践(POC)→制度化(事業化)といった研究開発のプロセスで捉え、EX革新室にて実験を重ねています。

「最初に学ぶ段階があって、次に実際にやってみて自分たちで良し悪しを判断する。これを社内の他の部門へ展開していくのが今のフェーズなのですが、超えなければいけない壁がたくさんあります。まずはやはり、現場で自分事化してもらわないことには始まらないので、試行錯誤しながら進めているのが現在の状況ですね」。

働き方改革を研究開発のプロセスで整理した図。それぞれのフェーズで超えなければならない障壁がある

Wonder LAB OsakaからPLAY with、そして現在のEX革新室と、現在に至るまでのプロセスを辿った本会。それぞれのフェーズで得た知見が余すことなく共有され、会場の参加者たちは真剣に聞き入って手元のペンを走らせていました。

EX革新室の取り組みは、まだ道半ばの挑戦です。異質なものの混じり合いから生まれる創発的な価値、そして一人ひとりが自分事として働き方を変えていくことの重要性は、今回の講演を通して参加者に深く伝わりました。社内外の多様なプレイヤーとの共創をさらに広げ、新たな価値創造の可能性を追求する彼らの変革の旅は、これからも続きます。

記事の内容は公開時のものです。
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