AI時代をサバイブする恒久普遍の概念。
“アーキテクチャ”の磨き方。
時代や環境が変われど、恒久普遍の概念があります。
ある人はそれを「本質」と言い、「核心」と言い、「エッセンス」と言うかもしれません。
技術部門DX・CPS本部、デジタル・AI技術センター、クラウド・エッジソリューション部部長の秦さんは、これらを「アーキテクチャ」と表現します。
決まった答えがなく、それぞれがそれぞれに試行錯誤の中で見出し、深め、そして築き上げていくアーキテクチャ。新時代をサバイブするにあたり、必須とも言えるこの概念をいかに獲得していくか。
本稿では、そんな難題に挑み続ける秦さんへのインタビューを通じて、抽象度の高い「アーキテクチャ」の概念を紐解いていきます。
秦 秀彦(Shin Hidehiko) 技術部門DX・CPS本部、デジタル・AI技術センター、クラウド・エッジソリューション部部長
1997年松下電器産業株式会社(現パナソニックホールディングス株式会社)入社。専門領域は、Web・ネットワーク技術、データ分析、機械学習。これまでに、世界発組込み機器向けWEBブラウザ開発の実現や、クラウド家電サービスアーキテクチャAPI開発にも携わるなど幅広い経験をもつ。現在はB2B現場のサイバーフィジカルシステム化プラットフォームの開発に従事。
汎用可能な“アーキテクチャ”を組む
パナソニックグループの中で、新たな事業機会の創出を担うパナソニックホールディングス (PHD) 技術部門。同部門では、2024年7月に、2040年の未来社会のありたい姿とその実現に向けた研究開発の方向性を示す「技術未来ビジョン」が定められました。そこでは、実現したい未来として「一人ひとりの選択が自然に思いやりへとつながる社会」が掲げられており、社会にめぐらせたいものの一つとして、「生きがいがめぐる」が柱の一つに据えられています。
生きがいをめぐらせるにあたって、大事なのが日々の時間の使い方。働く人たち一人ひとりが豊かな時間を納得して使えるためにはどうすべきか。そんな正解の無い問いに向き合い、技術で挑んできたのがDX・CPS本部のデジタル・AI技術センター、クラウド・エッジソリューション部です。同部署の創立メンバーで、現在部長を務める秦さんは、自身たちの取り組みを次のように説明します。
「我々は、現場の多様なデータを収集し、技術を駆使して分析、知識化を行い、創出した情報価値によって産業の活性化や社会問題の解決を図っていく、いわゆるCPS(Cyber-physical system)の部署です。社内の製造現場だったり、物流や流通といった現場などで得た業務改善ノウハウを、社外のお客様の現場でも役立てていただいています」。
昨今の労働人口減少に伴う就職市場では、旧来の企業と労働者の関係とは異なり、より労働者に寄り添った仕事環境づくりが求められています。そうした情勢の中、同部署では労働業務の効率化や質の向上といった現場改善業務を通じて、人々が働く現場の課題解決に取り組んできました。
そんな秦さんの部署内では、日夜交わされる議論があると良います。
「私たちの部署では日常的に『あなたのアーキテクチャは何か?』といった問いが飛び交っています。アーキテクチャとは元々は建築用語で『構造』を意味しており、IT業界では主にシステム全体の設計や構造のことを指します。これが定まっていないとシステムがどのように構成されるべきかを決定できず、開発全体の方向性が示せません。逆にアーキテクチャが定まっていれば、システム全体を構造的に捉え、それぞれ滞りなく機能させることができるんです。
私たちの仕事において、技術の適用限界と理論的な限界を理解していることは重要です。これらを把握していないと、制約の多い現実世界において技術を導入することはできません。アーキテクトは、この限界を踏まえた上で、性能・コスト・品質・共通化といった機能要件を解決していく必要があるのです。
この考え方ができるかどうかが一番大事で、メンバーにはその重要性を常々話しています」。
同部署が行う現場改善業務では、さまざまな現場に入り込み、顧客の課題をヒアリングして最適なモデルを構築します。業界や地域といった環境が違えど、そこには共通する“アーキテクチャ”が確かに存在しており。それをいかに自分の中で組み立てられるかが大事なのだ、と秦さんは続けます。
全体のプロセスを俯瞰する眼はそこで磨かれた。
「現場ごとに課題をヒアリングして、それぞれの現場でモデルを構築することはもちろん大事です。しかし、現場に最適化され過ぎてしまえばそこでしか使えないものになってしまう。多くの現場経験を積み、個別具体的なケースから本質を見つけて一般化し、さまざまな現場へ水平展開できるようにすることが大事なんです」。
あなたの“アーキテクチャ”は何か?
一人ひとりがそれぞれの“アーキテクチャ”を磨き上げられるように、秦さんの部署では大事にしていることがあります。一つは豊富なユースケース(現場事例)を集めること。そして、それぞれのアーキテクチャの考え方を磨き合う「対話」の文化の醸成です。
「そもそも、アーキテクチャには正解が無いので、組み上げるのがとても難しい。大事なのは具体と抽象を行き来すること。現場の具体的な事例を一般化し、他でも用いられる汎用可能な“アーキテクチャ”へと昇華させるためには、数多くのユースケース(現場事例)を集めることと、それらの抽象度を上げる高度な抽象化能力が必要で、私たちの部署ではここをとても大事にしてきました。
また、個々人の組み上げたアーキテクチャをより磨き上げるために、互いの考え方を深め合う『対話』を重視しています。これまで私たちの部署では、『あなたのアーキテクチャーは何ですか?』『私のアーキテクチャはこうです』と議論を行い、共に考え学び合うことで答えの無い問いに挑む環境を整えてきました。
この環境がとても大事なポイントで、僕が言っちゃうと答えになってしまうし、『秦さんだからできたことでしょ』となってしまう。だから、そこを対話が生まれる環境にすることで、僕からの一方通行ではなく、全方位からアーキテクチャを考えられる環境にしたんです」。
「あなたのアーキテクチャは何か?」という議論が日々活発に交わされる部内。しかし、その解像度や思考強度の高さは人によって差があり、課題を感じていると秦さんは話します。
「具体的な技術の話であれば理解してくれる人は多いのですが、アーキテクチャのように抽象度の高い話についてはなかなか理解されません。周りの仲間にも『秦の言っていることはわかるがどうしても話が難しい』と言われる機会が多く、かなり難航しています。私自身、日夜いろんな方法を試してみて、試行錯誤しながら進めているのが正直なところです」。
こうした難題に対し、秦さんが挑み続けるのには大きな理由がありました。それは生成AIの誕生と、飛躍的な技術発展によるエンジニアに求められる役割の変化です。
「今後、多くの仕事が生成AIに代替されると予想されています。そんな中で、技術者の生き残る道はここしかないだろうなと。他の業界を見てみても、一つの専門性に特化するだけでなく、それを生かして他領域へ越境し、イノベーションを生み出している事例は多く見られますよね。 我々技術者も、アーキテクチャを磨き上げ、それをさまざまな現場に展開していければ、この混迷の時代をサバイブしていけるのではないでしょうか」。
黒子として、土台をつくる
インタビューの最後、秦さんは技術者として「黒子の矜持」を大事にしていると語ってくれました。
「昨今プラットフォームビジネスが大きくなっています。僕はここにアーキテクチャとの共通点を見出していて、それは何かと言うと『主役は作る人』ということなんです。プラットフォームもアーキテクチャも、それをベースに何をつくるか、どう活動が起こるかが大事じゃないですか。だからこそ、僕たちは黒子に徹して、技術者として強度と自由度の高い“土台”をつくることが大事だと思うんです。ここを履き違えて、自分たちを主語にアーキテクチャを考えると、作り手への視点が欠けてしまう。主役がいきいきと活動できる土台を作る“黒子”としての矜持を持って、今後も仕事に取り組みたいですね」。
「みんなの力を借りずして、為せることなど何も無い」と話す秦さん。その言葉には、仕事を通して強固で汎用性の高いアーキテクチャを組み上げ、さまざまな領域を越境し、多種多様な人たちと共創を生んできた、秦さんならではの思いが込められていました。
今後こうした感度を持った技術者が誕生し、これまで交わらなかった領域で新たな未来社会が築かれることを期待して、本稿を締め括ります。
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