2025.08.04
世界の先端の働き方

理想の社会システムを創る:
菊地さんの白老町移住と独自の哲学

新しい働き方 インタビュー

生きるための基盤と稼ぐための基盤を分けたいと思った―。

そう語る菊地さんは、私たちの「働く」の常識を根底から覆す働き方・生き方を実践しています。

なぜ彼は都会を離れ、馬と暮らす道を選んだのか?その選択の先に見えてきた「新しい働き方・生き方」とは何か?

人生の価値観を根本から問い直し、自らの手で新しい働き方・生き方を切り拓いた菊地さんにお話を伺いました。

菊地 ​辰徳​(Tatsunori Kikuchi)

​​株式会社​ haku ​代表取締役。株式会社​ BREW ​代表取締役。不二ハウス工業株式会社取締役。米国の大学で環境学を修めた後、現地で環境コンサルティング会社等を経て、長年馬術を通じて関わってきた馬と暮らすこれからの持続可能なライフスタイルを実現するために、東京から岩手県遠野市へ移住。その後​2017​年に北海道白老町に家族と移り、廃業した旅館をリノベーションして​2019​年に​haku hostel + cafe bar​を開業。仲間と共に​The Old Grey Brewery ​を創業​。

https://hakuhostel.com/
https://www.theoldgrey.com/

自然との調和を求めて - 菊地さんの移住物語​

北海道白老町に移住した菊地さんは、都市生活の価値観から離れ、馬とともに生きる新しいライフスタイルを求めてやってきました。東京での生活を経て、一時は岩手県の農村で過ごした菊地さんですが、理想のバランスを求めて白老町へと移り住んだのです。​

「生きるための基盤と稼ぐための基盤を分けたいと思ったのが、移住する一番のきっかけでした」と菊地さんは語ります。
東京では、生きるための基盤と稼ぐための基盤が同一化していたことに窮屈さを感じていたといいます。

白老町を選んだ理由の一つは、新千歳空港まで​40分という地理的利点。都市との繋がりを保ちながらも、自然と共生できる環境を求めていました。そして何より、「馬とともにある暮らし」を実現できる場所だったのです。​

菊地さんにとって馬は単なる趣味ではありません。「馬力は再生可能エネルギー」と考え、環境との調和を実践する手段でもあります。「青草を食べるだけなので、本当に再生可能なんです」と菊地さんは説明します。​ 

社会をよくするシステム設計の哲学

菊地さんの考え方で特に興味深いのは、社会改善に対するアプローチです。彼は個人の道徳心や意識の高さに依存するのではなく、社会システムそのものを変えるべきだと主張します。

「環境で言ったら、全ての人の環境意識が高まって、それで環境に良い社会になるというのが理想ではあるけど、ほぼほぼ不可能じゃないですか。だから本当の理想を言えば、環境なんて何の意識もしないで、社会の仕組みとして自然に良くなってるという方がいいと思います」

菊地さんによれば、現在の社会は「システムの欠陥を個人の努力で補おうとしている」状態であり、そこに無理が生じています。彼が提唱するのは、個人が特別な努力をしなくても、自然と環境や社会に配慮した行動が取れるような仕組みづくりです。

「個人に何か選択を迫るのはちょっと違うような気がして。電力網とかがもうちょっと自然とか配慮されてるものであれば、それでいいわけなので」と菊地さんは言います。

彼はこの考え方を実際の生活でも実践しています。例えば、自身の宿泊施設では​​バイオマスボイラーを導入し、運営する牧場の山林​​にある​​未利用材も活用して給湯や暖房をまかなっています。これは「自然資本を生かして、生きるために必要なものに変えていく」取り組みの一環です。

システムデザインが人の行動を変える

​興味深いのは、菊地さんが指摘する「ルンバ効果」です。ロボット掃除機が普及したことで、人々は意外な行動変容を見せました。​
「掃除機を買う人って、掃除好きじゃないんですよ。面倒くさいから、楽したいから買っているはずなのに、ルンバのために部屋を片付けるようになった。人間とロボットの立場が一瞬変わった瞬間です」

これこそが菊地さんの考える「社会システムのデザイン」の好例です。テクノロジーによって、「掃除したくない人が、ロボットのためなら掃除するように」行動が変化する。個人の意識に訴えるのではなく、自然と望ましい行動が取れるようなシステムを設計することで、社会全体が良い方向に進むという考え方です。​
「仕組みとして持続可能な社会を作っていくことが大事」と菊地さんは強調します。教育や啓発によって環境意識を高めることも大切ですが、そこに頼りすぎると限界があります。むしろ、人々が特に意識せずとも、自分にとって得する選択が社会全体にとっても良い結果をもたらすような仕組みを構築することが重要なのです。

美しさと機能性を両立する社会へ

菊地さんの思想の背景には、「美しさ」に対する独自の価値観も存在します。

彼は単に機能的であるだけでなく、美しいシステムを作ることの重要性を説きます。

「美しさで物事を判断していいと思うのは、生物は環境の淘汰を受けるから。人間が美しいものを残し、醜いものを捨てるのは、美しさという基準を通じて環境の淘汰を受けているのかもしれない」

菊地さんは、合理性のみを追求するのではなく、心地よさや美しさも含めた総合的な視点から社会システムを考えるべきだと主張します。LED照明の例を挙げ、エネルギー効率だけでなく、その光が作り出す風景や心理的影響も考慮すべきだと語ります。

「世の中全部LEDに変えようとなって、昔の暖かい街灯が白色のLEDに変わっちゃうのはものすごく嫌なんです。すごく冷たくなって、夜の街の風景がどんどん冷たくなってきている」

未来への展望

菊地さんの思想は、私たちの社会と技術のあり方に根本的な問いを投げかけています。個人の道徳観や意識に頼るのではなく、社会のシステムとして持続可能性や美しさを実装する。そして、人々が特別な努力をしなくても、自然と社会全体にとって望ましい選択ができる仕組みを作る。

白老町での暮らしを通じて、菊地さんは自らの理想を少しずつ実現しています。それは華々しい変革ではなく、日々の小さな実践の積み重ねかもしれません。しかし、そのような「風景を作る」取り組みが、やがて大きな社会変化につながる可能性を秘めているのです。

「電力源や電力網のシステムが自然や環境に配慮されていれば、それでいい。
個人に、無駄に電力を使うな、と努力を迫るより、明るくしたいときは明るくしたいし、ある程度快適性が担保されて何かに感動しているっていうのも大事だと思う。人は一度手に入れた利便性は放棄できないですから。」

菊地さんの哲学は、技術と人間、効率性と美しさ、個人と社会のバランスを取りながら、より良い未来のシステムをどう設計するかという、現代社会における本質的な問いに向き合っています。

取材後記:新しい働き方を求めて

本連載「世界の先端の働き方」では、既存の枠を超えた多様な働き方を模索する方々を紹介しています。菊地さんの実践する「生きる基盤と稼ぐ基盤を分ける」という哲学は、私たちの「働き方」への新たな視点を提供してくれます。

多くの人が感じる「働きすぎ」「仕事と生活のバランス崩壊」という問題に対し、菊地さんは単に時間配分を変えるだけでなく、生活の基盤そのものを再構築するという解決策を示しました。

また、個人の意識改革だけに頼らない「システムデザイン」の考え方は、企業や組織が働き方改革を進める上でも重要なヒントになるでしょう。良い働き方とは、個人の努力や我慢によってではなく、自然とそうなるように設計された環境から生まれるのかもしれません。

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