「スポーツの“凄い”を可視化することで、見る人を魅了する。」

(「Aug Lab」特別対談)
「スポーツの“凄い”を可視化することで、見る人を魅了する。」 「スポーツの“凄い”を可視化することで、見る人を魅了する。」

語り手(右):齋藤精一氏 パノラマティクス(旧:ライゾマティクス・アーキテクチャー)主宰
聞き手(左):持田 登尚雄 「Aug Lab」CHEERPHONE開発担当(パナソニック株式会社 デザイン本部 未来創造研究所)

パナソニックでは、「Aug Lab」を立ち上げ、“Augmentation for Well-being”として、人の感性や心に働きかけ、何気ない日常が豊かになる「Well-being」な社会づくりを目指している。今回は、CHEERPHONEチームの持田とパノラマティクス(旧:ライゾマティクス・アーキテクチャー)主宰・齋藤氏による特別対談。これまでスポーツシーンでの新たな価値創出に取り組んでいる齋藤氏に、CHEERPHONEをテーマにスポーツ×テクノロジーで生まれる新たな体験価値について語ってもらった。

持田:スポーツシーンでの新たな価値創出に取り組んでいる齋藤さんが、スポーツ分野において、どんなところに熱量を注いでいるのかを伺いたいです。

齋藤:テクノロジーの凄いところは、今まで見えなかったものを見せてあげられることです。プレーヤーやルールを知っている人にしか分からない部分を、みんなに見せることができる。実際に試合を見に行くと、解説がないと理解できないものが多くあることを実感します。

持田:トップアスリートの技術は見た目には簡単に映るけれど、実は凄いことをやっているというケースが多いですよね。

対談風景

齋藤:凄いけれど見えていない部分を可視化して、わかりやすく伝えられないかと考えるところがアイデアのきっかけになったりします。演出ではなく、パフォーマンスの凄さを伝えることで、観る人を魅了する、そんなことを考えてきました。

持田:では、スポーツが担う社会的役割についてはどうお考えですか?

齋藤:そこまで深く考えていませんが(笑)。でも、もっとカッコよく見せること、少しでもメジャーになってほしいという強い気持ちがあります。もともとは、自分が見てみたいものを実装したいだけなんです。結果、パナソニックさんのようなメーカーをはじめ、喜ぶ人がたくさん出てきたらいいかなというスタンスです。

持田:テクノロジーがスポーツに役立つ領域はあると思いますか?

齋藤:大いにあると思います。スポーツは競技ごとにルールがあるし、一つ覚えて満足という形にはならないですよね。ファンの見方、応援の仕方、エンゲージの強さもそれぞれ違う。そういったことを一つ一つ丁寧にやっていくところに、技術の入る余地はたくさんあると考えます。

持田:「Aug Lab」で進めるスポーツの応援にテーマを当てたCHEERPHONEへの印象をお聞かせください。

対談風景

齋藤:私自身、スポーツが大好きで、みんなに見て欲しい、知って欲しいという気持ちがあります。オリンピックのような世界的なイベントに限らず、さまざまなスポーツがあります。CHEERPHONEのコンセプト、応援をテーマにして今まで聞けなかった声を届けるというのは、すごくいいと思いました。スポーツの応援とは、選手に元気玉を送ることだと私自身は考えています。元気玉を送れば選手のパフォーマンスが上がるし、たとえ失敗しても、それがまた別の元気玉として送った側に戻ってくる。CHEERPHONEは、音に特化している点もいいと思うし、なによりリアルタイムで元気玉を投げられることが魅力であり、いろんな実装の仕方を試したくなります。

持田:もともとCHEERPHONEチームは、「チーム元気玉」でやっていました(笑)。技術やテクノロジーありきで出てきたアイデアではなく、どうやったら離れている相手に元気玉を届けられるのか、から始まりました。

齋藤:CHEERPHONEは声だけでなく、映像、文字など、いろいろなメディアに派生できる可能性を感じます。 少し脱線しますが、スポーツのダイナミズムを感じる瞬間は、人(ファン)と人(ファン)が繋がったときだと思っています。例えば、以前、日本代表のサッカーの試合で、ハーフタイムになると水圧が下がるという現象がありました。みんなが一斉にトイレに行くからなんですが、近所の人たちみんなが同じ行動をしている、ひとつになった感じがするあの瞬間って、いいなと思うんです。

対談風景

持田:同じ試合を観ている人同士で音だけでもいいから体験を共有する、それはCHEERPHONEのやりたいことの一つでもあります。面白そうですよね。
さて、齋藤さんが考える究極のスポーツ体験について伺いたいです。

齋藤:子どもの将来を少しでも変える、影響を与えるものがスポーツだと考えています。以前、ある撮影の合間にバッターボックスに立ち、140kmの球を体験する機会がありました。そこから野球の見方が変わったのを今でもよく覚えています。サッカー、ラグビー、バスケットボールなどでも同じような経験をしました。離れたところから試合を見るのと、実際に目の前でボールの速さや選手の技術を体感すると、見方や興味がガラリと変わります。将来を変えるくらいの強い経験を子どもたちにさせてあげたいですね。もちろん、リアルに体験することに越したことはないけれど、テクノロジーを使ってリアルに近いバーチャルでも体験させてあげたい、そんな気持ちでいます。

持田:そうですね、確かにスポーツと子供はどうやって出会うかによって、人生にも大きな影響がありますよね。
本日はありがとうございました。面白いお話が伺えました。

齋藤精一
パノラマティクス(旧:ライゾマティクス・アーキテクチャー) 主宰
1975年神奈川県生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。03年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのを機に帰国。フリーランスとして活動後、06年株式会社ライゾマティクス(現:株式会社アブストラクトエンジン)を設立。16年から社内の3部門のひとつ「アーキテクチャー部門」を率い、2020年社内組織変更では「パノラマティクス」へと改める。
2018-2020年グッドデザイン賞審査委員副委員長。2020年ドバイ万博 日本館クリエイティブ・アドバイザー。2025年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター。